永遠の愛

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 小中の時の私はあまり健康ではなかった、薬は毎日たくさん飲まなきゃだし、一年の半分近くを病院で過ごしていた。  そのせいかあまり勉強できる方ではなく高校もなんとか受かった通信制に通っていた。  そんな私も明日から大学生だ。 「あーようやく待ちに待った華の女子大生生活かー、楽しみだな」  あ、鍵の開く音がした、お母さん帰ってきたかな? 「ただいま~」  やっぱりお母さんだ。 「おかえりー、今日の夕飯何にするの?」 「寒かったから鍋にしようと思って、野菜も食べられるしいいでしょ?」 「野菜かー……、野菜ね……うーん、やさい?」  好きじゃないんだよなー、独特の匂いがあるし……、お肉だけの鍋が食べたいなー。 「嫌なら食べなくていいのよ?」 「あ、いや……いただきます」  お母さんにはいつも何考えてるかばれてる気がする……。  そんなやり取りをしてる間にお母さんは冷蔵庫に入れ終わったようでこっちにやってきた。 「はいこれ、合格祝いってわけじゃないけどたまたま目に入ったから買ってきちゃった。節目にちょうどいいから育ててみなさい」 「なにこれ?玉ねぎ?ニンニク?紫色してるけど大丈夫?腐ってない?」 「ヒヤシンスよ。はいハサミとペットボトル、これで水耕栽培できるから。わからないことがあったらネットで調べるのよ」  相変わらず私の遺伝子を半分持ってる人とは思えない用意周到さだ、一瞬で外堀が埋められてしまった。  ヒヤシンスねー、そういやーどんな花だっけな、名前は聞いたことあったけど見たことないなー。えーっと「ヒヤシンス 花」っと。なになに~、へーこんな感じに花が咲くんだモフモフしてる。かわいい~。え、てかヒヤシンスにも花言葉とかあったんだバラとかにしかないのかと思ってた。ヒヤシンスは「悲しみ」「変わらぬ愛」かー。英語だと「I am sorry(ごめんなさい)」「please forgive me(許してください)」ねー。そういえば退院するときにこんな花をもらったような……? 「ねーお母さん」 「なに?育て方見つからない?」 「いやそれはまだ調べてないんだけど、私が退院するときにヒヤシンスの花もらったことない?」 「え、あんた忘れちゃったの? えみちゃんのこと」 「えみちゃん?」  だめだ思い出せない……。 「えみちゃんって誰?」 「お花屋さんの娘で小学校6年生になるまで同じ部屋だった子よ。将来はえみちゃんと結婚するとまで言ってたのに、結婚式は二人で純白のウエディングドレス着て会場を百合の花で埋め尽くすって」  あー、思い出した。あの色白で人形みたいに目の大きいめっちゃ可愛い子だ。 「思い出した確かにいたね」 「けどあの子に直接もらった記憶はないよ? 退院の時は看護師さんと先生がお見送りしてくれただけで」 「えみちゃんを忘れてるくらいだから覚えてないだろうけど、あなたが退院する少し前に大喧嘩したのよ、それでずっと口利いてなくて。……その花が最初で最後のプレゼントだったわねー」  思い出してきた……、あの時はどっちが友達が多いとかしょうもない事で喧嘩して退院するまで何も話さなかったんだ。 「ねぇえみちゃんの事でもっと知ってることない?」 「あるけど……、いいの聞いて後悔しない?」 「大丈夫、なんでもいいから教えて」 「退院の日にお花くれた時『初めて花束作ったんですけどうまくいかなくて……、入院生活退屈しなかった私はもう長くないけどずっと待ってるって伝えてください』って言ってたね」 「その花束の写真撮ったはずだから探してみるよ」 スマホの中を捜索しだした母を横目に私も思い出してみることにした。一緒に見た花の図鑑や内緒で買ってきてもらったアイス。学校には行けなかったけど今思い返すと楽しかったなー……。 「ねえお母さん」 「なに? まだ見つからないわよ」 「いやそうじゃなくてさ、えみちゃんに連絡取りたいんだけど住所とか知らない?」  長い沈黙が起きた、どうしよう何か地雷でも踏んでしまったのだろうか……? 「ねぇ、お母さん……?」  たっぷりの間のあとようやくお母さんは口を開いた。 「えみちゃんはね亡くなったのよあなたが中学生の時に……」 「え、嘘。嘘だよねお母さん」 「ほんとよ、こんなしょうもない嘘ついてどうするの?」 「今お墓の場所送っておいたから落ち着いたら行ってらっしゃい」 「んーありがとう」  ああほんとだ来てた、意外と近くなんだなー……。ゴールデンウィークにでも行ってみようかな。 「ところで写真はあった?」 「見つかったよ、送ったから見てごらん綺麗だよ」  お母さんの声は少し涙声になっていたけど、それは気が付いちゃいけない気がした。 「あーほんとだ綺麗だね……」  やばい私も泣きそう……。  泣きそうになるのをどうにかこらえながら尋ねた。 「ねえどんな花が入ってるのかな? 真ん中はヒヤシンスだよね?」 「そうねぇ、真ん中はヒヤシンスで周りの小さい水色の花は勿忘草かしら? それと1番外側にある白いのは……、どうしましょう思い出せないわ……。確かスノーなんとかだったわ、確か……」 「勿忘草とスノーなんとかねありがとう」  確かに雪みたいに白いね、名前なんて言うんだろうな。「スノー 白い花」っと、スノードロップとスノーフレークの二種類が出てきたけどどっちだろ? 「ねーお母さん、この花さースノードロップとスノーフレークって候補が出てきたんだけどどっちだと思う?」 「ちょっと待ってね……」 「うん」 「スノーフレークは花びらの先に緑の斑点が入るんだって、けどこれには無いからスノードロップなんじゃない?」 「ありがとう」  てことはヒヤシンスと勿忘草とスノードロップの三種類が使われてたのか。  ヒヤシンスの花言葉は悲しみとかごめんなさいだったけど勿忘草とスノードロップはなんなんだろう? 「えーっと勿忘草は『真実の愛』とか『私を忘れないで』か……、離れ離れになっちゃうし忘れて欲しくなかったのかな……。そう考えるとヒヤシンスは喧嘩してごめんってことなのかもな」  あとはスノードロップか、どんな花言葉なんだろうな〜? 「ねえもうすぐお父さん帰ってくるしスマホ見てるなら夕飯作るの手伝ってよ」  もう、調べ物してる途中なのに……。 「はーい今行きます」  …………さてと。 「じゃあお母さん行ってきます」  大学に入ってだいぶ経つ気がするけどまだ一月ちょっとしか経ってないんだよなー、それだけ充実してるんだな。  地図で見たけどほんとに近いな、まさか自転車で十五分の距離にあるとは思わなかった。  これからはもっと来ようかなー。 「えーっと、えみちゃんの場所はGの五区ね……」  あったあった、ここだ。 「会った時も大きかったわけじゃないけどこじんまりしちゃったなー……」 「久しぶり、私だよ覚える? 忘れてないよね、自分から勿忘草くれたんだし。ごめんね、私はまだそっちに行く気はないんだ、だからそっちの私の部屋掃除して待ってて、えみちゃんの分まで人生楽しんでいっぱいお土産持って行くから」  今更だけどお花ありがと、私もお礼に置いておくね。バイバイまた来るから。  花挿しには一輪の桔梗が揺れていた……。
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