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次の日の登校中、早速僕はみのりちゃんにズッキーニを栽培することを伝えた。すると彼女は飢えた魚の如く話に食いついてきた。
「自由研究でズッキーニを育てるの!?」
「う、うん」
「なら今日、君の家に行ってもいい!? 私、ズッキーニは育てたことがないんだ!」
思ってもみなかった返事に内心、僕は胸が高鳴った。その動揺を隠せないままナヨナヨとうなずいてしまったが、今思えば我ながら情けない返答だったと思う。
下校後、みのりちゃんはその手に『簡単! 家庭菜園』と言う本を持って僕の家にきた。みのりちゃんの持つ本にはびっしりと付箋が貼られており、常日頃からその本に見入っていることがヒシヒシと伝わってくる。それを見ていると、彼女の気を引こうと野菜を育て始めた自分が少し恥ずかしく思えた。
僕は家の裏手にある小さな庭に彼女を案内すると、そこで栽培されたズッキーニの姿を見せてあげた。でもみのりちゃんは僕が植えたズッキーニを見た途端、苦笑いにも似た表情を浮かべて呟いた。
「君、野菜は水だけやっとけばいいって思ってるでしょー?」
「えっ、違うの?」
「違う違う! 野菜ってのは水以外にも人の手を借りなきゃ育たないんだよ。ズッキーニは風で倒れやすいから、支柱を立ててあげなきゃいけないんだって」
ズッキーニを栽培したことがないと言っていたみのりちゃんだけど、それなりの知識は持ち合わせていたみたいだ。さすがは野菜作りの本を熟読しているだけのことはある。
「でも……」僕は買ってきた資材に目を向けた。当然、その中に彼女の言う支柱なるものは存在しない。だけど彼女は安心しろと言わんばかりに僕の肩を叩いてきた。
「大丈夫。支柱なら私も余ってるから貸してあげるよ」
「いいの?」
「もちろん。だってせっかく野菜作りの仲間ができたんだからね。ちょっと待ってて、すぐ持ってくる」
「あ、ありがと……」
その時のみのりちゃんの仲間と言う言葉に、僕は友達とはまた違った何かを感じた。
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