ほのかな恋

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 僕には最近、気になっている女の子がいる。僕と同じ四年二組で、隣の家に住んでいるみのりちゃんだ。  彼女はよくお裾分けとして、自身の庭で育てている野菜をくれる。そんな彼女に僕も、いつかはお返しがしたいと思っていた。  ある日のこと、登校中にみのりちゃんが育てている野菜についての話を聞く機会があった。 「私ね、今年の夏はトマトとゴーヤとオクラを育てようと思ってるんだ」 「そ、そうなんだ」  いくら隣に住んでいると言えど、僕は彼女が育てている野菜の種類に関して全くの無知だ。なのでこれを機会に、もう少し話を掘り下げてみることにした。すると彼女は嫌な顔するどころか、目を輝かせて自分が育てている野菜についてを教えてくれた。  みのりちゃんが作る野菜は基本的に、苗を近くのホームセンターで購入して育てているらしい。その話を聞いた僕は、日頃からのお返しとして自分で育てた野菜をプレゼントしようと考えた。  心の中でしっかりと彼女の言ったことをメモすると、早速家に帰ってお母さんに直談判を試みた。 「ホームセンターに行って、野菜の苗を買いたい」 「あんた、いきなりどうしたのよ?」  もちろんお母さんは何故かと尋ねてきた。だけどその質問を予想していた僕は、夏休みの自由研究として野菜を育てたいと答えた。そうしてしばらく話し合った結果、お母さんは僕が野菜の世話をすると言う条件と、上限の金額を指定した上で渋々了承してくれた。  次の日、下校した僕はお母さんと一緒にホームセンターへと向かった。野菜の苗のコーナーは普段から素通りしてきた場所なので、じっくり眺めてみる機会は中々に新鮮だった。  みのりちゃんが育てていないような野菜を育てなきゃ、プレゼントとしてのインパクトは薄い。それを心に留めた上で野菜を選んでいると、僕の目にある野菜が止まった。その野菜の名前はズッキーニ、昨日のみのりちゃんとの会話で一度も出てこなかった野菜だった。 「……これだ!」そう確信した僕は、お母さんにズッキーニの苗をねだった。だけどちょうど他の苗に水を上げていた店員に、お母さんがズッキーニの栽培可能なプランターのサイズを確認したことで事態は思わぬ方向へと進む。 「ズッキーニは根が深い植物ですからね。これぐらいのサイズがいいと思いますよ」  店員に示されたサイズは、かなり大きめのサイズのプランターだった。思わず僕は肩を落とした。何せプランターへ入れる土の金額も考慮すると、お母さんの提示した値段を上回っていたからだ。  それでも僕はズッキーニを作ることが諦めきれなかった。すかさずお母さんに来月の小遣い抜きと食器洗いをすると言う条件も付け加え、再度交渉をしてみる。 「そ、そこまで言うなら……」  僕の熱意を感じ取ってくれたのか、お母さんは驚いたように目を見開きながらも頷いてくれた。こうして僕は、様々な犠牲を払いながらもズッキーニの苗と高めのプランター、そして野菜栽培用の土を買ってもらった。
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