本編

1/1
前へ
/42ページ
次へ

本編

 私が行うオカルト調査には、主に二つの方法があります。一つは、行きつけの喫茶店で情報提供者と対談を行う方法。もう一つは、こちらから現場に足を運び、直接自分の手で調査を行う方法です。後者の場合、心霊スポットや遺跡などに赴いて調べることがほとんどですが、他にも事前にアポを取った上で、オカルト案件に関わる個人を訪問しに行くこともあります。  その日は丁度仕事が立て込んでいて、早朝から深夜まで、実に多くの方々の元に足を運ぶ必要がありました。しかし夕刻のある時、私は事もあろうに、乗る予定だったバスを逃してしまうという失態を犯してしまいました。そのエリアはあまりバスの数が多くなく、次の便が来るのは三十分以上も先。このままでは約束の時間に遅れてしまうと、私は薄ら寒いバス停で一人溜息を吐きました。  しかしそんな時、私の目の前を一台のタクシーが通りかかったのです。運の良いことに、運転手が困って頭を抱える私を発見してくれたのです。渡りに船とはこの事、私は荷物をトランクに詰めて貰い、ほんのりと暖かい車内に転がり込むと、運転手に行き先を伝えました。車は沈みかけた夕日を背に、薄暗くなり始めている道路を走り出しました。  運転手は若々しい男性で、ルームミラーに映る血色のいい顔を見るに、かなりエネルギッシュな人物のようでした。その雰囲気に違わず饒舌な御仁で、走行中も様々な話題で私を楽しませてくれました。そんな風に彼と会話をする中で、私の職業のことがテーマに上がりました。  私がオカルト研究家である事を知ると、彼はいかにもな雰囲気を醸し出しながら、自身の不思議な体験について話してくれました。今にも夜に移ろいそうな黄昏の道を行きながら、私は鏡に反射する日差しを横目に、彼の話に耳を傾けました。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加