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『星が消えた日』
ぼくが生まれるよりもずっと大昔のこと、夜空に輝く星が一つもなくなってしまった日があった。
『星が消えた日』
と、その日のことを人々は呼んでいる。
原因は、一人の男が、己の欲望のためだけに夜空に輝いていた星を全て取ってしまったせいだ。
その男は、単純に星が何よりも好きで、自分の元に置いておきたいと思ったのだ。
集めた星を洞窟の奥底にしまい込んで、一人眺めていたが、星と共に過ごせた日々はそう長くなかった。
星が消えてしまったことに驚いた人々が、星を探し回り、やがて男を見つけたのだ。
星を再び空に戻すことは大変な作業だった。
なにせ、星はどんなに空高く打ち上げても、空に固定せずに落ちてきてしまう。
人々が困り果てたその時、一人の少年が星を空に戻すことに成功した。
星を空に戻すことは意外と簡単だった。
少年はささやかな願いをかけたのだ。
“星に触れてみたい”と。
星に願いを。
星は、願いを叶えると同時に空へとあがってゆく。
再び夜空は元通り、願いを叶えた星で溢れた。
星を盗んだ罪は重く、男は無期懲役となった。
これで、全ては一件落着となった数年後。
星座を結ぶ星がひとかけら足りないことに気付いたのは、『星が消えた日』をつくりだした男自身だった。
どうやら、星は願いを叶えてくれるらしい。という噂が広まり、星を盗む人間が新たに現れたのだ。
以前ならば、願いを叶えれば空に戻るはずだった星は、願いを叶えた瞬間、力を使い果たし消滅してしまうことが判明した。このままでは本当に、今度こそ夜空から星が消えてしまう。
危機感に駆られた国は、新たに、星どろぼうを取り締まり、星を守る機関として天体管理局を設立した。
天体管理局に勤める人間は、星の気配を探ることができる相棒、ウサギのような長い耳を持つ丸い生き物のポラを連れて、国境を越えて旅をする。
星どろぼうを取り締まるため、主に夜、活動をするのが仕事だ。
ぼくもまた、天体管理局に勤め始めたばかりで、ポラと共に星どろぼうを取り締まっている。
だけどまさか、こんなことになるなんて思いもしなかった。
ぼくが誤って殴ってしまった男は意識を取り戻さなかった。
意識が戻らないことには、事情も聞けやしない。ぼくは男を引きずって平らな砂地まで移動する。
「ポラ、今夜はここで休もう」
ポラは少し迷うようにうろうろしてから、結局気球のように大きく膨らんだ。
ポラは星の気配を探れる存在であり、同時に休める場所にもなる。
あんぐりと開けられたポラの口から中に入り、男を寝かせてから、ぼくは外で簡易式コンロを使い湯を沸かす。
紅茶を淹れて飲みながら、りんごジャムを挟んだビスケットをかじっていると空が白み始めてきた。
流星群が太陽の光に吸い込まれるようにして消えてゆく。
星が見えなくなってしまうと、自然と眠たくなった。
男は未だに目を覚ます気配がない。
ぼくはふわりと欠伸をして、ポラの口の中へ入る。外からみれば半透明のポラの身体は、中に入るとふわふわと心地よく、薄暗い。
「おやすみなさい」と、ポラに言うと、「おやすみポラ。よい夢をポラ」と、声は内から響いた。
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