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はじまり
『星が消えた日』が存在する世界。
星どろぼうを取り締まる、天体管理局。
これは、天体管理局星巡り課一年生、山猫の物語。
○
夜の番人、ネロじいさんが天幕を下ろす。
流星群が降り注ぐ、群青色の夜。
黄緑と薄紫にくるくると発光する丸い生き物、ポラは長い耳を動かして言った。
「こっちから、星の気配がするポラ」
ぼくは宙に浮くポラの丸い背中を追いながら、どこまでも続く砂地を歩く。ここには見渡す限り空と砂しかない『銀の果ての河』と呼ばれている。これだけ星が降り注ぐ夜だ。星の気配がすることくらい、知れていそうなものだけど、ぼくはポラに従う。
「気配が強くなってきたポラ。こっちポラ」
ポラは砂の山を登って降りてゆく。
砂の上は歩きにくい。踏み込んだ足が砂に埋もれてしまう。
ぼくは懸命にポラを追って、砂の坂道を下った。その先でポラがぼくを呼ぶ。
「山猫。こっち、こっちポラ。盗人発見ポラ」
山猫とはぼくの名だ。
ポラは盗人と呼ばれた人の上を旋回している。
さて、その盗人と呼ばれた人物は、見事に星まみれで倒れていた。
「大丈夫ですか?」
金と銀に輝く星を身体のあちこちにくっつけている人物に声をかけた。
ボロボロのマントを身につけた彼は、長身をくの字に曲げて倒れていた。大きなリュックが近くに転がっている。肩を揺すると「ううっ」と、呻き声をあげた彼を、ぼくは抱き起こした。
彼とぼくの周りをポラが衛星みたいに旋回している。
「盗人ポラ。盗人ポラ。盗人ポラ」
「うーん、どうなんだろうね。話を聞いてみないことには、まだ何とも言えないけど……」
「頼む」と、彼は切れ長な瞳を突然見開くと、しがみついてきた。「星なら……、助けてくれ!」
「え? わっ、ちょっと、何するんだ!」
ゴチンといい音がした。
とっさに手が出て彼の左顎に命中したのだ。
「うぐっ」と呻いたっきり、彼は再び意識を失ってしまったらしい。ポラが彼の上に着陸して言った。
「山猫のパンチは強烈ポラ。ご愁傷様ポラ」
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