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今年も大学街の桜並木は、同じようにきれいだった。
懐かしい感覚を十二分に堪能して、咲月はゆっくりと胸に漂う感傷に背を向けた。
静寂がやがて喧騒に変わる。
さっきとは違う表情を見せる大学街の一角に、二十歳のときにアルバイトをしていた喫茶店がある。
雑居ビルの狭い階段をトントントンと上ると、自動ドアではないカランとした音色が咲月を出迎えてくれた。
「あら、咲月ちゃん。いらっしゃい」
エプロン姿のママがそう言った。
カウンター越しに厨房を覗くと、ママの旦那さんであるマスターが軽く手をあげて挨拶をしてくれた。
ランチタイムを過ぎた14時過ぎの店内は比較的すいていて、咲月はお気に入りの席に腰かけることができた。
見上げた壁には、何枚かの外国人の子供の写真が貼ってある。
その下に設けられたコーナーには、その子たちに関する記録ファイル。
そして、目立たないように置いてあるのは募金箱だ。
お水とおしぼりを持ってきてくれたママに、咲月は白い封筒を渡す。
「これ、今月分。いつもよりちょっと少ないけど」
「毎月毎月、悪いわね。ムリしなくっていいのよ」
そう気づかってくれるママに、咲月はホットミルクティーを注文した。
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