この世界にキミが居るだけで

1/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
今年も大学街の桜並木は、同じようにきれいだった。 懐かしい感覚を十二分に堪能して、咲月はゆっくりと胸に漂う感傷に背を向けた。 静寂がやがて喧騒(けんそう)に変わる。 さっきとは違う表情を見せる大学街の一角に、二十歳(はたち)のときにアルバイトをしていた喫茶店がある。 雑居ビルの狭い階段をトントントンと上ると、自動ドアではないカランとした音色が咲月を出迎えてくれた。 「あら、咲月ちゃん。いらっしゃい」 エプロン姿のママがそう言った。 カウンター越しに厨房を覗くと、ママの旦那さんであるマスターが軽く手をあげて挨拶をしてくれた。 ランチタイムを過ぎた14時過ぎの店内は比較的すいていて、咲月はお気に入りの席に腰かけることができた。 見上げた壁には、何枚かの外国人の子供の写真が貼ってある。 その下に設けられたコーナーには、その子たちに関する記録ファイル。 そして、目立たないように置いてあるのは募金箱だ。 お水とおしぼりを持ってきてくれたママに、咲月は白い封筒を渡す。 「これ、今月分。いつもよりちょっと少ないけど」 「毎月毎月、悪いわね。ムリしなくっていいのよ」 そう気づかってくれるママに、咲月はホットミルクティーを注文した。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!