調香師

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「これでよかったの?」 結果を言うと私とあの人の道は別れた 私を待っていたのはあの人と、私よりも若く綺麗な人 私の方を見て勝ち誇ったような笑みを浮かべた彼女に私はただ愛想笑いを返すしかなかった 最後にあの人に渡した香水の瓶は受け取ってくれたけれども…白い紙に名前を書いて、印を押して 最後の繋がりすら切れてしまった後で、私が持っていたあの人への感情が見当たらないことに気がついた まるで残り香が無くなるように 私が持っていた感情も全て持っていってくれたから楽になれたの? 一人きりの朝を迎えながら私は、窓を開けて空を見上げた 「ある意味、一番幸せな終わり方だったのかもしれない。私も、あの人にとっても」 あの人に渡した瓶の中身を私は知らない 赤いダリアの色をした瓶は今、どうなっているのか そんな考えも数秒後には消えていった 「…ああ、捨ててしまったのか」 暗い部屋の中、目を閉じて見ていた部屋の隅に置かれたゴミ箱の中に私が彼女に渡したはずの物が入っていた 「酷いものだな。なら、私が。役目を果たそう」 ゆるりと 宙を掴んだ手の動きと共に瓶の蓋が勝手に開いて、中から甘い香りが部屋じゅうに漂った 香りは男と、女に絡みつく 「これでいい。捨てた彼らに慈悲はいらない。君も、満足だろう」 布の奥の目が細められる 口が弧を描いた 「心正直に選んだ花と、感情を移す香りはずっと取れないのだから。お似合いだ、彼らには」 ーーーー 弟切草…恨み、秘密、迷信、盲信、敵意   (日記の彼女の感情…復讐、悲しみ) ダリア…裏切り、移り気、華麗、優雅、威厳、不安定   (由花の感情…信じられない、忘却)
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