調香師

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「お、由花。今日は早いな」 次の日、私が起きると時計は七時を指していた 休みだからって毎日起きるのは九時ぐらいで、お父さんを朝に見るのは久しぶり 「目が覚めちゃって」 「いいんじゃないのか?俺はもう行くけどそろそろ生活リズム戻さないとだろう」 「うん。私も今日は1日ぶらぶらしてみる。お母さんにはメモを残しておくから」 「じゃあ鍵はかけないでおくな。いってくる」 「いってらっしゃい。気をつけてね」 テーブルの上にはお母さんが昨日のうちに作っておいたご飯が並べられていた 私の分はいらないって言ってたからないけれど 二階に戻って私服に着替えてから小さめの鞄を肩にかける 中には財布と、ティッシュとハンカチ、お気に入りのミルクの飴玉、そしてスマホ…と、花 あのまま部屋に飾っていてもよかったんだけれど、もうすぐアパートに帰るし持って帰るわけにもいかない もっともらしい理由をつけるならば…何処かに、置いてこようかななんて 下駄箱の奥に押し込められていたスニーカーを履いてから外に出て、玄関の鍵を閉めた 辺りを散歩…というよりは、前と同じように川沿いにあるベンチに座ってボーッとしながら朝はサンドイッチを食べて、図書館に行ってみて 昼に適当なファミリーレストランでハンバーグを食べてからまたベンチに戻ってきてしまった 「…はぁ」 あと今日含めて二日 だけれども何も答えが見つからないまま時間だけが過ぎていく…考えなくちゃ、いけないんだけどね 「手っ取り早く、忘れる方法とかあれば楽なんだけれど…忘れたら心の中にぽっかり穴が開きそう」 あの人は今、私がいなくて清々してるのかもしれない あの人と私は同じ場所に住んでいたけれども、時間の合わない生活はすれ違いや隠し事を簡単にしてしまう わかっていたことで、本当で 両親に見せた顔と本当の顔が違って、でも私だけを見てくれているって考えると止まらなかった 『まだ、ほんの少しでも愛が残っていると思いたかった』 『そう、私。信じてしまった私が悪かった。そう言うと、布の向こうで静かに笑う声がして一つ、言いました。 君は誰に言い訳をしているの…って』 もう日は落ちてきていて建物の陰影を濃くしていた 重たい思考は頭の片隅に追いやってから花を取り出してベンチの枠、足の部分から生えた草に埋もれるように置いた ーーおいで 筈だったのに なのに私は、いつのまにか置いてきたはずの花を持って歩いていた 居酒屋と知らない人の家の塀の間にある狭い道の前 もう営業し始めているのか油物の濃い香りが排気口から外へ逃げ出していた こんな場所で立ち止まってみて、ようやく私は、日記の彼女の言っていることがわかってしまった 一歩踏み出してしまえばあとは勝手に足が動いてくれる 次第に声が、聞こえてくるからって ーーそのまま、感を頼りに進んで 私の知っている道じゃない だってこの道はこんなに長いはず、ないのだから そうして見えてくる赤い、赤い柔らかな光 藤色の暖簾を赤く染め上げて、鬼灯の中の赤い実が見える位置で止まった私は 「フィクションじゃ、なかったの」 親しみを覚えていた日記の彼女を嘘だと、勝手に決め付けていた事実を否定した
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