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「ばぁばー、これあげる!」
あの頃の日色を思わせる、たんぽぽのような笑顔の瑞輝が、私に走り寄り、白い何かを差し出した。
「瑞輝は小さい頃の日色にそっくり」
愛おしい孫の頭をそっと撫でる。
「私も写真見てそう思いました。あのたんぽぽみたいな笑顔」
莉子ちゃんが、小さい頃の日色の笑顔を、私と同じ様に感じてくれた事が嬉しかった。
そして、瑞輝の小さな手に握られていたのは、たんぽぽの綿毛だった。
たんぽぽの綿毛には、別れの意味がある事を、小さな瑞輝は知るはずもない。
真心の愛と別れ。
こんな二つの意味を持つたんぽぽの花。
新しい家族を作り、私から旅立って行った日色そのものの様で、なんとも皮肉だと感じた。
母と言うものは、損な役回りだと実感する。
しかしこの旅立ちは、未来を繋ぐ大切な事だとわかっている。
祝福するべき別れ、その先に輝かしい未来がある事も、ちゃんとわかっている。
無邪気な笑顔で差し出された、その綿毛を受け取り、私は一息にフッと飛ばす。
切なさを一緒に吹き飛ばす様に。
この小さな種子達が、新しい真心の愛となり、後世に繋がって行くのだと希望を込めて、飛ばした綿毛。
そんな事とも知らない小さな瑞輝は、嬉しそうに綿毛を追いかけた。
「莉子ちゃん、これからもよろしくね」
「はい、もちろんです」
可憐だけど、揺るぎない眼差しを見ていると、この子となら大丈夫。
真心の愛は繋いで行けると確信出来る。
「瑞輝ー、あんまり遠くに行かないでねー」
「はーい」と言って戻って来た瑞輝の笑顔は、日に照らされ、まあるく咲いた、満開のたんぽぽの様に輝やいていた。
完
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