番外編-彼を知る彼女のこと-

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それから二人、駅から少し歩いた先の水族館に入った。 去年咲と来た時に、季節やその月のイベントに合わせた展示仕様になっていて楽しかったのを覚えていたので目的地に決定した。 それとともに常設されている海のトンネルという、水槽に囲まれたトンネル状の道をくぐった時は響くんと二人、思わず口を開いたまま見入ってしまった。 「すごいな」 「うん…!!やっぱり綺麗!」 「琴乃は来たことあるの?」 「うん、この間の友達とね」 へぇ。と相槌を打ったと思ったら、 「じゃあ、その時よりも楽しい思い出にしてもいい?」 「うん…??」 訳も分からずに返事をすると、そこから水族館内を回り終えるまで、私の腰には響くんの手が回されていて、手をつないでいる時よりも近づいた距離に私は終始心が落ち着かなかったのだった。 「琴乃、お待たせ」 「ありがと…!!ごめんね、お願いしちゃって」 水族館を見終えて、近くのカフェに入って少し遅めの昼食兼休憩を挟むことに。 「深海生物見たの初めてだったけど、面白い形してたな」 「ね!メンダコ可愛かった!」 琴乃全然離れようとしなかったもんな。と笑う響くん。 なんか…すごくデートをしている感じが…。いや、デートなんだけど! 楽しそうな響くんに胸の辺りがきゅっと締め付けられる。 なんだろう、この感覚。すごくそわそわする。 「この後はどうする?」 「えっと…」 「あれ??響じゃん」 声の方を見ると、そこにはジャージにスポーツバックを背負った男子数名。 カバンに書かれた文字は、響くんと祐樹の通う高校の名前が印字されていた。響くんの友達…? 「おー。今日部活か?」 「そうそう、練習試合。響は…ってデートか?!!」 そうだな。と答える響くんに「マジかよーーー!!」「ずるい!!」と口々に言う男の子たちはやはり響くんの友達なのだろう。 会釈だけして、空気になるべく押し黙る。 友達との話、遮るわけにはいかないし…。 そう思っていたら、男の子の内の一人があれ?と口にして 「でもお前、ついこの間違う女の人といなかったっけ?」 「…え?」 思わず耳を疑った。 「ほら、髪の長い超美人な。デパートの辺りいたろ?」 「っバカ…!」 余計なこと言うな。と言わんばかりに遮る響くん。 普段と違って少し焦りの見える様子に、それが事実だということがはっきりわかった。 「ほらもう行けって…」 「んだよー。」 またなー。と去っていった後の沈黙。 何か…すごく、ここに居たくない。 女の人?髪が長くて美人…?なんで?私がはっきりしないから…?? もやもやした感情が胸の中に溜まっていく。 「琴乃?」 「…る。」 「え?」 「…お腹痛くなってきちゃったから…、帰る。…っごめんなさい」 「え、待っ!」 お財布から急いでご飯代を取り出し、机に置いて席を立った。 後ろから名前を呼ばれたけれど振り返らずにお店を出た。 なんでこんなに逃げたいんだろう?なんでこんなにモヤモヤするんだろう? 「知らない…っ」 目頭に熱が集まってくる。 なんで、なんで…? 響くんのことを考えようとした。今日のデートで、今までよりも、今までの分もちゃんと。 でも今はできない。 『でもお前、ついこの間違う女の人といなかったっけ?』 『ほら、髪の長い超美人な。』 あの言葉、そしてそれに対する響くんの態度。 そのどちらにも心がざわついて落ち着かない。 その日は結局、気持ちを落ち着けられないまま帰った。 早い帰宅に祐樹はひどく驚いていたけれど、話すこともなく部屋に閉じこもって携帯の電源を落とし逃げるように目を閉じた。 私、どうしたいんだろう…?
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