番外編-彼を知る彼女のこと-

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響くんの手を引いて、家から少しだけ離れたところにある公園に入る。 夕方を過ぎ暗くなった時間に子供の姿はなく、静まり返っている。 入ってすぐのベンチに座り、響くんにも隣に座ってもらうように促した。 ここまできたならもう、ちゃんと正直に伝えることを話そうと決心する。 「響くん。この前はごめんなさい。」 響くんのほうを向いて、響くんの手に触れる。 俯いていた彼の顔がゆっくりとこちらを向いて目が合った。 「琴乃…」 「あ、あのね?すっごく楽しかった。響くんとお出かけして、すごくドキドキしたの」 慌てない、焦るな私…。 「勝手に帰って、本当にごめんなさい。」 思わず響くんに触れる手に力が籠る。 「…理由聞いても良い?」 触れていた手の甲が裏返され、掌同士が重なってじんと熱が伝わる。 なんで、優しいんだろう。もっと怒ってもおかしくないのに。 何でそんな、優しい目で見つめるの…? 「ひ、響くんが、女の人といたって、聞いて、」 「うん」 「なんか…悲しくなって、やだって、思っちゃって…」 「うん」 「考えがまとまらなくて…っ」 「うん…ごめんな」 そっと手を引かれて、腕の中に納まる。 この腕の中は、ひどく安心する。他の誰かに教えたくない。知ってほしくない。ここは私の場所がいい。 そう思ったら、目頭が熱くなった。 「ひびきくん」 「なに?」 「…すき………」 好きです。貴方のことが。心の奥底から、すごく、すごく 「すき……す、き」 「っ、琴乃」 「ごめんね…っ、すき、なの…」 頬を温かいものが伝う。 もっと言いたいことがあるのに、嗚咽交じりに好きという二文字しか伝えることが出来ない。 「も…響くんが、私のこと好きじゃなくてもっ……好きです」 それでもいい。もう一番伝えたいことは、その二文字だから。 そっと響くんが離れて、不安になって顔を上げるとすごく優しい表情の響くんと目が合って、心臓が跳ねる。 「やっぱり勘違いしてたな」 「え…?」 「あいつらが言ってたのは、俺の姉貴のこと。」 ………え??? 姉貴…姉………お姉さん…????!!! 「え、あ、え?」 「んでもって、その時買いに行ったのはこれ」 「へ???」 何か小さい袋をカバンから取り出して、私の掌に乗せる。 急な展開に頭が追い付かない私に、その中の出してみてと促す響くん。 言われるがままに中を取り出すと、袋から現れたのはピンクの指輪で。 「え?!ゆ、ゆび?!!」 「女の子の好きなものわかんねぇから、姉貴に付き添ってもらっただけ」 「あ、えと…そう、なんだ……?」 待って。待って欲しい情報過多すぎて頭がまったく追い付かない。 つまり…?私が勘違いした相手は響くんのお姉さんで、私へのプレゼントを選んでくれていたと……?? 「指輪がプレゼントって、重いかと思ったんだけど」 「あ…」 掌のそれを響くんが手に取って、私の左手の薬指に導く。 「もうほんと、この先一生、琴乃しか考えらんないし、琴乃のこと絶対振り向かせるって思ってたから。」 薬指にピッタリはまった輝き。 そしてそこにチュっと口付ける響くん。 「琴乃との将来、俺にください。」 「~っ!!!」 顔が熱い。これでもかってくらい、熱くて、涙も出てくる。 「琴乃、良い?」 「っうん…!」 私の顔、きっと、いや絶対ぐちゃぐちゃ。 でもすごく…すごく、幸せ。 「響くん好き…っ」 「俺も好きだよ」 すごく長い回り道をして、 今日この日、私は”響くんの彼女”になった。
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