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番外編-彼を知る彼女のこと-
「好きって、なんだろう」
「なーにー?急にセンチメンタルな感じ?」
駅のすぐ傍にあるハンバーガーショップで向かい合って座り、ふとこぼした言葉にもぐもぐとハンバーガーを食べながらも相槌を打つ咲。
食べながら喋らないの。と注意するとはぁい。と気のない返事で食事を再開させた彼女を見つつも、脳では違うことに考えが行く。
『片思いがあるから、俺は。正直、流されてだとしても琴乃が俺に捕まっててくれるなら嬉しいから。他の事は気にしなくていいよ。』
先日響くんから受け取った言葉。
いつも強引なくせに、すごく優しい心に胸が苦しくなる。
気にしなくていいって、言われてもなぁ…。
やっぱり心の何処かに引っかかる感じがして、この数日ふと考えてしまう。
「こーとのっ!」
「へ?むぐっ」
名前を呼ばれてハッとした瞬間に、口に押し付けられる甘い香り。
「アップルパイ、一口どーぞ!」
「んむぐ…ありあと」
口の中に広がるりんごの味とパイのサクサクした食感。
ありがたく一口頂くと咲はこちらをじっと見ていた。
「で?さっきのはどういう意味で?」
「あー…うん。ちょっと、考えてて」
「何よぅ、あんなにカッコいい彼氏くんができたのに」
「うっ……」
そういえば咲には付き合うに至った経緯をちゃんと説明していなかった。
付き合いも長く、信頼している友達。一人で悩むより相談するべき?
「私でよければ、聞くよ?」
そんな考えを見透かすように笑う咲には本当に敵わないなぁ、なんて思う。
「うん。あのね…?」
---…。
「ほぇー…。彼、すごいね…。」
「うん…。」
男子校侵入のこと、そこでの出会いから付き合いに至るまで、…ちょっと詳細は省きながらも事の詳細を伝えた。
「で、琴乃は好きかどうか曖昧なのに甘えているのは申し訳ないと」
「そんな感じ…。」
うーーん、と伸びをしてジュースを飲む咲。
ズゴゴ。と飲み終えた音がして、咲は真剣な表情でこちらを見た。
「それは…」
「それは…?」
「………難しいねーー!!」
なはーー!と笑顔を見せる彼女に、きっと私の目は点になっている。
溜めに溜めたと思ったらまさかの返答。
「ちょ、ちょっと!真面目に言ってるのに!」
「いやぁ、だって本当に難しくてさぁ!」
あはは、と笑う咲。
思わず脱力して椅子に体重を深くかけた。
「あのね、琴乃」
「なに?」
「好きってね、理屈じゃ表せないよ」
伏せていた瞳を咲に向けると頬杖をついて、でもすごく優しい笑顔でこちらを見る彼女の姿が映る。
「理屈じゃ、ない?」
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