暗い土で、根は絡み合う

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暗い土で、根は絡み合う

 声をかけてくれたのは、ひとりの男の子――ううん、どこか中性的で女の子にも見えるし、何より年齢もよくわからない。わたしよりも年下みたいに見えるけど、もしかしたらずっと上なのかも?  なんだか、全部がわからない人だった。 「すごく、苦しそうに見えましたよ。大丈夫ですか?」  とても優しい言葉だったから、わたしはすぐにわかった。あぁ、なんだ、この人もそうか。優しい言葉で近付いて、結局身体のことしか考えてないんでしょ? 一瞬でも何か違うものを感じ取ったわたしは、まだまだお子様だったっていうことなのかな。いいよ、別に。でも、期待させた分だけいつもより多めにお金を貰ってもいいよね……。  開き直ってしまえば、あとは簡単で、いつものようにちょっと陰のある、誰かに寄り添っていなければ崩れ落ちてしまいそうな女の子の顔をして声を出していれば――――。 「ありがとうございます……、あの、もしよかったら、」 「…………、」  悲しげな吐息に一瞬、何もかも忘れて。思わず見入ってしまった彼の顔は、本当に悲しそうに濡れていた。 「え、」  なんで。  どうしてあなたが、そんなに悲しそうにするの? そんなことされる筋合いなんてないのに、意味がわからない、え、なんで……? 「(つら)いですよね」 「え、え、」 「あなたも、人の醜い部分を何度も見せられてきたんですよね……。わかります、僕もだから」  そう言われてみると、納得できた。それと同時に、思わずわたしの方が泣きたくなってしまった。  彼が着ている服に対して、アクセサリーが妙にお洒落で高そうなものであること。少し伸びた襟首から見える肩に、大きめの絆創膏が貼ってあること。暗くてはっきり見えないけど、たぶんもっとある……たくさんの“痕”が。 「僕も誰かに助けてほしくて、痛くて、寂しくて……。気が付いたらここに来ていたんです」  涙ながらに言う彼は、わたしだった。  彼が(こぼ)す涙は、誰のことも信じられなくなって、ううん、信じることを拒むようになってしまったわたしが、ずっと心のどこかに抱えていた気持ちだ。 「あ……、あぁ、あぁぁ…………」  ただ、涙が止まらなかった。  世界はあまりにも残酷だ。彼のような、泥の中に沈んでも人を思いやれるような子にまで、こんな風に涙を流させるなんて。  立ち上がって、彼を正面から抱き締める。  震える背中に回した手からは、ずいぶん感じていなかった温もりが染み入ってくるように感じた。
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