永遠の愛

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 シンとする会場。音葉はバンドのリーダに軽く頷く。彼女はハミングと共に、歌い始めた。バンドのメンバーは、どうやらその曲を予定してなかった様子。少し慌てたように、楽器を持ち直したが、音葉の声に合わせて静かなリズムを刻みだした。  さっきまでの盛り上がりとは、打って変わって静まりかえったホール。観客たちは、みな胸の前に手を重ね、彼女の歌声に聞き入っている。バンドの仲間たちも、いつしかリズムを打つ手が止まり、静かに彼女を見つめる。  彼女の清らかで通る歌声だけが、ライブハウスに木霊する。  ああ、この歌は……。僕のための歌?……。音葉……。泣いてる?……。  音葉は、静かに歌い終わると、軽くお辞儀をして、ステージの裏に消えていった。  あっけにとられていた観客たちが、一斉に拍手をする。突然現れ去っていった少女に、惜しみない拍手を送る。拍手は鳴りやむことがなく、思いがけない成功に驚いたような顔のバンドメンバーたちも舞台を後にする。  僕は、音葉を探してステージ裏の楽屋の方へ。 「音葉は?」 「こっちには、いないよ。すごいじゃん、あの子。お前の彼女?」  僕は楽屋を飛び出す。楽屋の外には、バンドのファンだけじゃなく、会場にいた殆どの人が押し寄せて来ていた。そんな人の波を押しのけ、ライブハウスを飛び出した僕は、自然と公園の方へ向かう。公園の中を走って、二人の思い出の大きな木の辺りまで来た。
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