永遠の愛

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 その日から、僕は音葉に夢中になった。音葉は、十六歳。高校生ってことだけど、どこの高校に通っているのかは、分からない。音葉には、不思議なところが多かったけど、ちょっとした世代の違いだろうくらいにしか気にかけなかった。  音葉と過ごす日々は、全てが新鮮で、それでいてどこか懐かしい。音葉の笑顔、音葉の声、音葉の仕草、その全てが、僕に幸せを運んでくるかのようで、僕の中での音葉の特別感は、日を追う度にどんどん増してゆく。  音葉は僕と居る時、時々歌を口ずさむ。僕と居て安心しているのか、軽く僕に寄りかかりながら目をつぶり、自然と口ずさむ。柔らかなメロディー、優しい旋律に、僕も心を落ち着かせ、静かにそれに聞き入る。 「その歌なに? 素敵な旋律だね」 「私のお母さんが……、よく歌ってくれた……」  音葉の少し物憂げな横顔……。僕は、幼い頃に父親を亡くしている。だから、なんとなく分る……。  はじめて僕の部屋に音葉を連れてきた時、音葉は窓際に置いてあった植物に特に興味を示していた。窓際に座り、じっとその植物を見つめる音葉。 「殺風景だから、なんとなく緑が欲しくてね。アイビーっていうんだ」  僕がキッチンでコーヒーを淹れる間も、音葉は、まだ植物を見ている。 「友達が、ここに遊びにきた時、そいつの花言葉を教えてくれてさ」 「花言葉?」  音葉が僕の方を向く。 「どんな花にも、それを象徴した意味があるんだ。そいつの花言葉は『死んでも離れない』なんだって。可愛らしい植物なのにね。でも確かに生命力は強いらしい。ほっといても元気に育つから、ズボラな僕にはちょうどいい」  音葉はテーブルに着きコーヒーに口をつける。しばらくすると、音葉はまた窓際に行き、植物を見ている。 「私、違うと思う……」 「え?」  音葉の言葉に、聞き返す。 「この子の花言葉……。……『永遠の愛』……だよ……」
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