12・嬉しい待ち合わせ

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12・嬉しい待ち合わせ

****♡Side・副社長(皇) 「まったく…」 なんて察しがいいんだと思いながら塩田との通話を終えた皇は、 「皇くん」 と、社長に声をかけられた。 「これから呑みに行かないかね」 とお猪口を口もとに持っていく仕草をする社長。しかし皇は、 「これから用事があるので」 とすかさず断り、綺麗に身体を折った。塩田が作ってくれたチャンスを逃すわけにはいかない。隙を見せない皇に、さすがの社長もそれ以上は強引に出来ないのか、 「用があるなら、仕方ないね」 と一瞬顔を曇らせたが、 「では、店が閉まってしまうんで」 と踵を返そうとすると、用事の内容が人と会う為ではないと気づいた彼は、笑顔を見せた。 「慌てて事故を、起こさないようにね」 と。 社長の自分への想いが、肉欲ではなく愛情だと気づき始めてはいたが、それと同時に、塩田への想いが増している。課長の指示とは言え、彼は優しい。自分に好意があるのではないかと、勘違いしてしまいそうなほどに。 『あんまり買いすぎるなよ、豚になるだけだから』 彼の言葉を思い出し、皇は肩を竦める。辛らつに感じてしまうような言葉に、優しさを感じたのはいつだったか。 「初めに酷いことをしたのは俺なのに」 皇は呟きつつ、デパートへ入っていく。ここにしかない土産を買う為に。皇は中央付近まで行くと、エスカレーターに乗り込む。目的は酒のつまみのチャーシューと角煮。このデパ地下に有名店があるらしい。 支払いの段になりスマホに視線を移すと、どうやら塩田からメッセージが届いていたようだ。支払いを済ませ、メッセを開くと”駅にいるから迎えに来て”と一言。 「駅って、ここの?」 社長の誘いをどうしても断りたかった皇は、今回の出張に自分の車で来ている。車は駅のパーキングに停めてあった。 「塩田?」 デパートを出ると、彼に連絡を入れる。 『ああ、今どこ』 「駅に、向かってる」 『どっちから来る?』 「東」 まるで、デートの待ち合わせのようだなと、顔がにやけてしまう。 『じゃあ、東にいる』 「わかった」 通話を切ると、自然と早歩きになった。塩田が自分を待っていてくれることがこんなに嬉しいなんて。いや、待っていてくれることなんて、この先ありはしないと諦めていたからだ。 ───あれ?ところで電車(でんま)は? 二人で来ているのなら、電車が黙っているわけがない。しかし、塩田の周りで声はしなかった。そこで、車を取りに行くと言っていた話を思い出す。という事は、別行動をしたという事なのか。 「皇」 駅に着くと、すぐに声をかけられる。 気になっていたことを問えば、 「まだ死にたくない」 と、一言。 ───どれだけ運転信用してないんだよ。 皇はなんだか複雑な気持ちになったのだった。
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