研究

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 不老不死になれる。  何だかゲームやファンタジーの世界だ、と思う。すでにこの世界自体がそうなのだろうから仕方ないけれど。  不老不死になれる植物を手に入れるために、研究を繰り返す。それには犠牲や忍耐が必要で、その結果がこれということだろうか。足元のガラス片をぼんやり眺めながら考えている。 「そして、随分話が逸れてしまいましたが、研究に協力して頂いた人達の話です」  思考を遮るようにそんな声が聞こえる。僕は頷いて続きを促す。 「彼らには特別な力が秘められていました。それは、人工太陽の光に耐える力です。初めて人工太陽が人々に公開された日、多くの方がその光の犠牲となりました。けれど、彼らは違った」 「……太陽の光を浴びても変化が起こらなかった?」 「はい、その通りです」  多くの人が、身体中から植物が生えて動けなくなっていく中、彼らはそのような変化を見せなかった。何か特別な力が働いているとしか思えませんでした。そして、もしかしたらその力を我々も手にすることができるかもしれない。そんな期待のもと、研究が進められていきました。  けれど、そう簡単にはいかなかった。当然です。彼らも我々と同じ人間なのですから。痛みを感じない訳がない。長時間の拘束に、苦痛を覚えない訳がない。  毎日のように悲鳴を聞きました。それによって精神をおかしくした研究員もいました。謝罪の言葉を何度も口にして、どこかに消えてしまった者も。  長い、とても長い時間が過ぎ去ったその後。この森の中には、無残に砕け散ったガラスの残骸と、もとは人間だったはずの植物達が生い茂るようになりました。  話はそこで途切れた。僕は、もう一つだけ聞きたいことがあった。 「研究に協力してくれた人たちは、いつ居なくなっていたんですか?」  彼は俯きながら話す。 「分かりません。ほとんど不眠不休で働いていた時に、やっと手に入った休憩時間。2時間ほどでしたが、それを終えて戻った頃には1人として残ってはいませんでした。けれど、すでに上司すら居ない状態だったので、私ももうこれで終わりでいいのではと思いました」 「上司が居ない? どうしてそんなことに」 「やられたんです。人工太陽の光に。いくら研究員とはいえ、僕らだって普通の人間なんです。長時間あんなことをしていれば、いずれ天罰が下るだろうことは分かっていました」  そこで思い出す。この研究員の顔。左の頬あたりに生えていた植物の鱗。 「……もしかして」僕の声に、研究員は何かを悟ったように応える。 「ええ、そうです。私にも生えてきているんです。植物の鱗が。いずれ私も植物になってしまう。きっとこれは報いなんでしょう。自業自得です」  彼の瞳は、何かを諦めたような、けれどその一方で何かを決心したような強さを秘めていた。
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