向光性に従え

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「少年よ、私に花をくれ」 「…………はい?」  たっぷりと間を置いて困惑を表した(はる)()に、(ひかり)はぴくりとも顔を動かさずに、もう一度同じことを口にした。「私に、花を」  やっぱ、綺麗だな。  ほぼ同じ目線の上級生に見惚れつつも首を傾げた。あんた、なに言ってんの? 敬語に変換してそう告げると、光はびしっと自身の胸元を指差した。 「見てくれ。この花を」  彼女が身を包む制服の胸ポケットには、卒業を祝うために贈られた赤いカーネーションが挿してある。無論、校庭にたむろする三年生の胸には等しく同じ花が咲いていた。ぐるりと周囲を眺め、当たり障りのない感想を口にする。 「めでたくて、いいんじゃないですか」 「母の日じゃあるまいし! どういうメッセージだ? 花言葉は『母への愛』……産んでくれた母への愛は日々抱くべきものだ。なんか違う! そう思うのは私だけか!?」  校庭のほぼ中央で、光の声は徐々に大きくなり、たちまちに注目を集めた。 「先輩、声が……。えっと、なんですか? その花が気に入らないと……」  必死で取りなす陽葵に直った光は、意志の強そうな瞳でじっと見つめた。 「すまない。今のは言い訳だ。カーネーションに罪はない。これはこれで、とても嬉しい。花がどうこうではなくて、私が言いたいのは……」  光の声を遮るように、気まぐれな春風が校庭を吹き抜けた。生徒たちの喚声とともに砂埃が巻き上がる。目の前に立つ光の長い髪も風に弄ばれて、吹き流しのようになびいた。 「私のためだけの、なにかを……花を、くれ。少年、私は、君が、私のためだけに選んだなにかが、ほしい」  三月三日、県立青龍高校卒業式での出来事である。
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