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「マロンが沢渡家に子どもを取られて、連れ戻しに屋敷に来るわけが無いのに。五年も一緒に暮らしていてそんな事も分からないなんてな」  涼一様は連れ戻されたわけではなく、大旦那様・・・“おじい様”とのご対面を果たすためであったと涼介様は言う。  ただ私は押さえつけられ、涼一様へと伸ばした手は届かなかった。涼一様も酷く扱われて、それも心が痛かった。  あんな風に乱暴に子どもを扱う方々ではなかったはずで、そうなってしまったのは涼一様が男Ωの子だからなのではないか。 「父は拗ねていたんだよ。マロンがいつまでたっても涼一を迎えに来ないから。それに、涼一を迎えに行った者が勝手にマロンを悪者だと思っていたのが原因だな」  暴れる子どもが一番危険だと涼介様は仰る。  下手に扱えば落ちるし力を込めれば傷をつけてしまう。迎えに行ったのは父の会社の方の秘書だから特に、扱いが雑だったのだろうと。  一向に孫を見せに来ない。大旦那様は常々お付の方に零してらした。だから大旦那様の(めい)で涼一様を連れて行く時に、私の存在が邪魔だったのだ。大旦那様に仇なす輩として。 「今回は痛み分けっていうのはちょっと無理があるな。マロンは仕方ないとしても、父はやり過ぎだ」  それでも、マロンと涼一が暮らすのに支障がないよう、行く先々で仕事を世話したり住居を用意したりしてたみたいだぞ?  涼介様が教えてくださったのは、これまで何度も変えた仕事先と家の事。  そういえば、独身のΩに部屋を貸すのは余り好まないオーナーが多いと聞いていたのに、不動産屋では名前を言えばそれなりの物件を貸してもらえた。  幼稚園も是非にとすぐさま受け入れてもらえたし、家と幼稚園の間に仕事先があった。  通りに面した場所に、わかりやすく貼り紙がしてあって、面接だってあるようでなかった。一も二もなく翌日から、と言われるのが常だった。  私は大旦那様に嫌われていたわけではなかった。 「ほら指を出せ」  病室に来る度、私の膝に乗る涼一様とベッドに腰かけ私の肩を抱く涼介様。  あまりにも自然で泣きそうになる私の手を掴み左手の薬指に指輪をつけてくださる涼介様は「やっぱりちょっと大きかったか」と困った顔をされる。 「お前が出ていく前日に用意したんだ。次のマロンの誕生日に贈ろうと思って。  なのにマロンはすっかり痩せてしまって・・・」  元の体に戻さないとな。屋敷に戻ってこい。  ここで目覚めて久しぶりに涼介様とお会いした時も似たような事を仰っていた。プロポーズと。ただそうは言ってくださっても、それは許されない事なのでは無いか。  私はΩで、涼介様のお傍には・・・、正確には涼介様と涼一様のお傍にはいてはいけないのだ。  涼介様は名家のお嬢様を奥様に娶らなければならないし、そんなお姿を見たくはない。  涼一様だって、本来なら私が勝手に付けた名ではなく、大旦那様か涼介様が名付けをするのが当たり前で、改名をされるはずで・・・ 「いいか、マロン。俺は今本当に後悔してるんだ。お前にもう少し世間の常識とか法律とか教えておくべきだったと」
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