1384人が本棚に入れています
本棚に追加
涼介様は緩くクルクルと回ってしまう指輪を落ちないように指で押え、私を抱き締めたまま「結婚してくれるね?」なんて仰る。
涼一様も「よかったねまろん。もうなかないでね」と嬉しそうに笑う。
涼介様が望んでくださる。それはとても幸せな事なのに、もうずっと隠れるように生きてきた私は涼介様の言葉を素直に受け取ることが出来ずにいる。
応えあぐねていると痺れを切らした涼介様が「もうめんどくさい」と私を抱きかかえる。
「マロン、お前はもう十分に休養しただろう?そろそろ退院しても問題ないな?」
そう言って病室を出てしまう。
私の膝に座っていた涼一様までも一緒に抱えて重くないのだろうかと心配になるが、涼介様はαでそれこそ力だって私よりも何倍もあるのだから、心配など無用なのかもしれない。
涼介様に抱きかかえられてお腹の上の涼一様に頭を撫でられて、車まで運ばれる。
後部座席に座っても体勢は何ら変わらず、心地よい振動についウトウトとしてしまった。
気がつけばベッドの上で涼一様とお昼寝をしていた。
私に寄り添うように眠っている涼一様に戻ってきてくださって、傍にいてくださってありがとうございますと心の底から感謝を伝える。
涼一様を取り上げられこの世の終わりだと先の生を捨てるところだった私を拾い上げてくださったのは、涼一様ともう私など記憶の隅にも残っていないだろうと思っていた涼介様だった。
どんなに焦がれても私など捨て置かれるものだとばかり思っていた。
なり損ないのΩなのだから。
そんな私を救ってくださったどころかこのまま嫁になれと言う。
このまま死ぬのだと思っていた私にとって青天の霹靂と言っても過言ではない。
Ωの・・・それも男Ωの私を沢渡家の嫁になどいくら涼介様に望まれたからといってすぐさまその手を取れるほど、私は世間知らずではない。
涼一様を育てている間、Ωというだけで向けられる哀れみの目、何を言っても問題ないとばかりに発せられる辛辣な言葉。
そんな私が涼介様と婚姻を結ぶなど・・・涼一様を授かり、お傍にいられることができるのだから、そこまで望まない。
最初のコメントを投稿しよう!