その罪の名前は

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 ヘルツ警部は応接間で伯爵と話をした。しかし特に手掛かりになる情報は何も持っていなかった。 「あの部屋はオットーの私室だ。趣味に打ち込む時だけあの部屋に……部屋にあるものを見たかね? 本……それも皆、芸術や小説ばかりだ。……恥を晒すようだがわたしたちは親子としては上手くいっていなかった。……息子は最近文学や芸術を語らうサロンに加わっていたらしい。自作の絵や詩を人と回し読みして……わたしはそんな軟弱な集まりに加わるなと再三言ったのだが、彼らなら何か知っているかも知れん……」  ヘルツ警部は目を瞬かせた。「サロン、ですか」  伯爵は頷いた。「勿論メッテルニヒ侯爵夫人が主宰するような立派なサロンでは無いがね。従者のギルマンなら何かを知っているかも知れん」  伯爵と別れたヘルツ警部はすぐさま階段下に向かった。そこに繋がるドアを開けたところでヒューゲルと鉢合わせた。 「警部! 昨晩は客の来訪の予定は無かったそうです。あと従者のギルマンの証言によるとオットーは最近悩みを抱えていたそうです。元気が無く、一方でかなり苛々した様子で……神経衰弱(ノイローゼ)だったのかもしれません」 「神経衰弱(ノイローゼ)か……だが遺書は見つかっていないと言っただろう」 「まだ見つけられていないだけかもしれません」  ヘルツ警部は頷いた。「もう一度あの部屋を調べよう。伯爵は御子息がサロンに加わっていたと話してくださった。自作の詩や絵を披露していたそうだから、そのノートも一緒に探すんだ。あるかもしれない。……ギルマンはそれについて何か話してくれたか?」  ヒューゲルは首を振った。「ただそのサロンがシュレーゲルミルヒ侯爵夫人主催の、かなり大規模なサロンだったことは知っていました。ギルマンはいつも外で待たされていたようですが」  シュレーゲルミルヒ侯爵夫人はヘルツ警部でも名前を知っている。先に挙がったメッテルニヒ侯爵夫人と対抗している夫人で華やかな容貌の持ち主では無いがかなりの博識で、白いヒヤシンスのように控えめな美しさを秘めた女性だ。 「そのサロンのこと、知っているか?」 「えっ、まぁ……あのレーヴライン元帥夫人が出席するサロンですから本当に健全な知的なサロンですよ」  ヘルツ警部はふむ、と頷いた。「侯爵夫人のサロンのことを調べないといけないな。ヒューゲルは死体保管所でドクトル・カントから検死結果を受け取ってくれ」 「分かりました」
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