24人が本棚に入れています
本棚に追加
父さんが出てくる前に部屋に戻っちゃおうか…… そんなことを考えた。やっぱり私には園芸なんて似合わない。きっと腐らせたりしちゃうに決まってる……
「千里、これだ。父さんと一緒にやるか?」
「1人でやりたい。じゃなきゃやんない」
寂しそうな父さんが「そうか。分かんない時は聞きなさい」って、またぼそぼそっと言った。さっきは声に力があったのに。
――私のせいじゃない!
そう思いながら、持って来たバケツの水にコケを浸して絞った。私のせいなんかじゃない……
水ゴケを小さなプランターに敷きながら、なんだかポタポタと涙が止まらない。父さんに「一緒にやろう」って言えば良かった……
やり方を書いた紙を見ながら球根を植えた。もう水遣りしかやることは無い。乾かさないように。日当たりのいい場所に。
たまに水遣りを忘れて慌てるとちゃんとプランターが濡れていた。何も言わないけど、きっと父さんが面倒見てくれてるんだと思った。
「ありがとう」
夕飯の時に小さい声で言ったら、父さんの箸が止まった。
「どうした? なんだ?」
「なんでもない!」
気がつかない父さんに溜息出たけど文句を言うのは止めた。
時々チィちゃんの夢を見た。
「お水は優しくあげるのよ」
たったそれだけ。でも朝起きて泣くのは減った。チィちゃんと一緒に育ててるような気がして。
最初のコメントを投稿しよう!