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   父さんが出てくる前に部屋に戻っちゃおうか…… そんなことを考えた。やっぱり私には園芸なんて似合わない。きっと腐らせたりしちゃうに決まってる…… 「千里、これだ。父さんと一緒にやるか?」 「1人でやりたい。じゃなきゃやんない」  寂しそうな父さんが「そうか。分かんない時は聞きなさい」って、またぼそぼそっと言った。さっきは声に力があったのに。 ――私のせいじゃない!  そう思いながら、持って来たバケツの水にコケを浸して絞った。私のせいなんかじゃない……  水ゴケを小さなプランターに敷きながら、なんだかポタポタと涙が止まらない。父さんに「一緒にやろう」って言えば良かった……  やり方を書いた紙を見ながら球根を植えた。もう水遣りしかやることは無い。乾かさないように。日当たりのいい場所に。  たまに水遣りを忘れて慌てるとちゃんとプランターが濡れていた。何も言わないけど、きっと父さんが面倒見てくれてるんだと思った。 「ありがとう」 夕飯の時に小さい声で言ったら、父さんの箸が止まった。 「どうした? なんだ?」 「なんでもない!」 気がつかない父さんに溜息出たけど文句を言うのは止めた。  時々チィちゃんの夢を見た。 「お水は優しくあげるのよ」  たったそれだけ。でも朝起きて泣くのは減った。チィちゃんと一緒に育ててるような気がして。  
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