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2年になった。クラス替えも無くて、やっぱり学校はつまらない。担任さえ変わんないんじゃ目新しいことなんかあるわけが無い。変わったのは教科書だけ。ああ、つまんない。
玄関を開けた途端、父さんが「千里!」って怒鳴った。驚き! まだ怒鳴れるんだ。
「なに?」
靴を脱いで父さんの所に行きもしないで自分の部屋に上がろうとした。鞄もあるし、着替えてないし。
「千里!」
2段ぐらい上がって、そこにドスン! と鞄を置いた。
「なによ、もう!」
声がしたのは庭の方。下りて、庭を覗いた。
「どうしたの? 私、何もしてないよ」
「見てごらん」
プランターの表面にある緑色。
「それ……」
「そうだよ、芽が出たんだよ、千里」
――チィちゃんのサギソウが芽を……芽を出したよ……
私も父さんも、しばらくしゃがんでいた。何度も唾を飲んだ、涙を落としたくなくて。
父さんと一緒に手入れをするようになった。倒れないようにとか、水遣りの加減だとか、私一人じゃ分からないことが多かった。
父さんの声ははっきりし始めて、ぼそぼそしなくなって、母さんも笑うようになっていった。私はそれがチィちゃんに悪いことしてるみたいで、ちょっと後ろめたかった。
そんなある日、夢を見た。チィちゃんがにこにこ庭で笑ってる。
『チリ 上手に出来てるよー 大丈夫だよー』
夢の中でそう言ってくれたような気がした。
起きた時には躊躇わず真っ直ぐ庭に行くことが出来た。
(ちゃんと咲いてね)
私じゃないみたい。そう思いながら揺れるサギソウの茎を見た。
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