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   待っていた夏休み。待っていた季節。サギソウの咲く季節。 (植物図鑑、買ってみようかな)そんなことを思って本屋に行った。 ――わ! 高い! これは無理だ……  その時、そばに階段を見つけた。上向きの矢印の下に、『喫茶店Aznavour』と書いてある。なんて読むんだろう? アズナヴォア?   流れるような文字で書かれてる名前をじっと見てたら、エプロンをつけた女の人が下りてきて、見上げている私と目が合った。 「あの、お店なら後5分くらいで開店しますけど」  きれいなボブのお姉さん。少し痩せてて、でも優しい笑顔の人。そう言われたから入らないと悪いような気がして頷いた。 「これ、なんて読むんですか?」 さっきの文字を指差して聞いた。 「あずなぶーる、そう読むんですよ。昔のフランスのシャンソン歌手の名前」 不思議な響き。でも急に入りたくなってきた。『あずなぶーる』、いい感じ。 「本買ってからまた来ます」 そう言って本屋の中に戻った。  やっと手ごろな本を見つけた。写真は少ないけれど余計な小難しい説明もなくて、シンプルに世話の仕方とか気をつけることが書いてある。今度は違う花も育ててみたい。  階段を登ってドアを開けると、からん、と可愛い音がして小さな音楽が聞こえた。なんとなく古い曲。でも、ちょっと古びたこのお店にすごく似合ってる。 「いらっしゃいませ」 さっきの女の人がにこっと笑ってくれた。  そんなに中は広くない。でもテーブルがとてもお洒落! お店の真ん中に大きな長方形の木のテーブル。よく磨いてあって触ると暖かい感じ。両側に4つずつの椅子。小さな2人用のテーブルがあちこちに4席。窓側は木のカウンターテーブルみたいになっている。  窓側の右端に行って、いい感じに前後に揺れる椅子に背中を預けた。ゆらゆらとしながら窓の外を眺める。 ――やだ、クセになりそう……  
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