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  「何にします?」 小さなメニューは開くと可愛いハートの形。 「アイスココアと、ミニホットサンドのセットで」 これで550円なら悪くない!  本を買ってすぐに来たんだから自分が一番だろうと思ったけれど、先客がいた。気がつかなかった一番端っこの窪みに引っ込んでいる2人用のテーブル。上に小さな瓶があって、白い花が2本立っている。そこに細い体の男子学生が一人。本も飲み物も無くて、頬杖ついて窓の外を眺めてる。  ちょっと印象的。上に空調があるのかな? 長めの髪が風にそよいでる。夏休みなのに学生服? 補習とか部活とかに行った帰りなのかもしれない。  ちらちら見てたけどココアとサンドが来たし、本も気になってる。急いでサンドを食べて、後はココアを飲みながらゆっくり図鑑を読んでいた。 「お水、どう?」 声をかけられて時計を見たら1時間近く経っていて驚いた。 「ごめんなさい! 何もお代わりしないで席占領しちゃって……」 「お店、ヒマだから」 お姉さんは笑っていた。  本当だ。見渡しても6人くらい? 端っこを見たらさっきの男子はいなかった。もう帰っちゃったんだ。 「ゆっくり読んでて大丈夫よ。お水持って来るわね」 お姉さんはすぐにお水を持ってきてくれた。輪切りのレモンが一枚浮かんでる。 「ありがとうございます!」 そう言った時に目が奥の席に泳いだ。あれ? さっきの男子だ。今度はこっち見てる。優しい笑顔。 「あの」 「なに?」 「あそこの白いお花のテーブル」 「ああ、あれね。あの花は『サギソウ』って言うのよ」 サギソウ! まだウチのは咲いてない。本当に真っ白。 「どうしてあの人、何もしないでずっと座ってるんですか?」  飲み物も何も無いからすごく不思議でつい聞いてしまった。お姉さんはハッとした顔をしてすぐに後ろを振り向いた。じっと見つめて涙がポロポロ落ち始めた。 「あ、あの……」 「ごめんなさい、私ったら…… ありがとう、気づいてくれて。今まであの子を見た人はいないのよ。私にも滅多に見えなくって……」 「見えないって?」 「あの子は私の弟なの。裕也(ゆうや)っていってね…… こんな話して大丈夫かしら? 聞きたくなかったら帰っていいのよ。お代、いらないから」  フッと見たら、もういない……   
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