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庭のサギソウが咲いた。
「お父さん! お母さん! 咲いたよ‼」
私の声に二人が飛んできた。サギソウの花は本当に真っ白な鳥が飛んでるみたいで、すごくきれいだ。
「そうか、咲いたか」
「きれいねぇ」
誰も泣いてなんかなくて、笑顔で。
――チィちゃん、咲いたよ!
心の中でチィちゃんに呼びかけた。
夜。なんとなく目が覚めた。椅子に誰か座ってる。ドキッとしたけど怖く感じない。振り返ったのは裕也さんだった。
「あの…… こんばんは」
あの笑顔が浮かんだ。頷いてそのまま静かに消えていった。
『チリー カッコいい人だねぇ』
そんなチィちゃんの声が聞こえた。でも全部夢だったかもしれない。
1週間に2回くらいそんなことがあるようになった。『Aznavour』にも何回か行って、そこでもいつもの席でサギソウの前に裕也さんが座っている。ただ目を見合わせるだけ。でも不思議だけどその笑顔にはいつもホッとした。
その後、友だちと会ったりレポートの宿題で忙しかったりしてお店に行けない日が続いた。学校が始まったらもっと忙しくなって、どんどん日が経って、そしたらなんとなく行きづらくなって……
でも夜中には裕也さんに会うことが出来たのに。
サギソウの花の時期が過ぎて、裕也さんは家にも姿を現さなくなった。けれど裕也さんのあの笑顔がずっと忘れられない。
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