さすらいの者共

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長年一緒にいる美野里でさえもこれだけでは慣れない。彼が集中した時の圧倒されてしまう気迫。彼の無愛想さも、超人的な有能さも、全て慣れっこになっていたが、これだけは。  「私の忍びが伝えてくれたんだ。行方不明の漁船のことを。」  忍びとは、どこかしこに隙間なく張り巡らされた情報源のことだ。彼らは、主婦として、廃れたサラリ-マンとして、空を眺める老人として。姿を変えて至る所に潜んでいる。忍びとメディアが嗅ぎ付ける情報は、そもそもの質が違う。どんな些細な情報でも、国家の命運を左右することがあるのだから。  「大型漁船が5台、行方不明になっている。一船に船員30人。たいそうな数だ。が、なかなか帰って来る気配がない。そこで、彼は単独で海に乗り出したんだよ。難波したなら船の残骸が残っているだろうし、生存者がいるかもしれないとな。」 そして、いなかった。と師は苦々しく言葉を嚙み締めた。 「生存者おろそか船の残骸もなかったそうだ。そして、発見したのは砕けた船の破片らしきものと、.....白骨だ。船員合わせて210人分のな。」 美野里は鋭く息を吞み込んだ。 「それは.....」 「そうだ。果たしてそれは人間の仕業だと思うかい?」
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