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コンビニから家まで少し距離がある。ただ、走るのは得意ではない。弁当が冷めないうちに帰りたいため、小走りで家まで急ぐ。
外観からは人が本当に住んでいるのか、と疑いたくなるようなボロアパート。階段は錆び付いていて、いつか抜け落ちるんじゃないかと思うほど不安定だ。
僕はこのアパートの二階角部屋に住んでいる。
鍵穴に鍵を差し込み、鍵を回すも上手く解錠されない。かみ合わせが悪いのかドアを開けるにもコツが要る。
「ただいま」
誰もいない、まともな家具もないワンルーム。家賃一万五千円、風呂はない。体を洗うときは台所にお湯をため、そこにタオルと石鹸を浸け、石鹸水が染み込んだタオルで体を拭く。髪もそこに頭を突っ込んでなんとか洗っている。
ただ、さすがに数日に一回は近くの銭湯まで行って体を洗うようにはしている。
テーブル代わりのダンボールの上に買ってきた牛丼を置く。
「いただきます」手を合わせて個装された箸を取り出し二本に割った。
ご飯と牛肉をちょうどいい割合で箸で掬い口に運ぶ。ここのコンビニ弁当はいつ食べても美味しい、そう思いながら二口目を箸で掬う。
舞台俳優を目指して上京し、専門学校を卒業したものの才能がないのか一向にオーディションを通過できない。
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