チャールズ

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 食いつなぐためのバイト先では、バイトリーダーにまでなってしまっている。挙げ句の果てには、店長から社員にならないか、と誘いも受けた。  それでも良いかも、と流されるまま目標を諦めかけている。  そういえば、と僕は一旦箸を止め、財布に入っているお金を床に広げてみた。 「今月もギリギリかな…」  財布には一万円札一枚、五千円札一枚、千円札一枚、残り小銭が全種類一枚ずつ。現在の全財産はこれだけだ。お金はない、なんとか生活している。 「あれ、十円足りない」  コンビニのお釣りは七十一円だった。財布に十円玉は二枚あるはず。それに僕は財布に入れる前に、しっかり確認した。なのに、十円玉が一枚足りない。  消えた十円玉の代わりに見たこともない銅貨が一枚。  知らない外国人の横顔が象ってある。裏には英文が渦を巻きながら刻まれている。数字はどこにも書かれていない。 「これ、この国で使えるのかな…。いくらだろう、銅貨だし一円じゃないよな。せめて十円で使えないと、損するんだけど」  僕はじっと銅貨の人物を見つめる。特徴的な髭をどこかで見たことある気がした。すると、銅貨の人物の目がゆっくりと動き、こちらを見た。  彼は、僕に笑みを投げた。  僕は銅貨を手にしたまま、動けずにいた。今、たしかに口が動いた。
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