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もう一度、口が動き笑いかけてくる。
間違いなく口が動いている。僕はそっと銅貨をダンボールの上に置いた。
「えーっと…、誰ですか?」
驚きのあまり、冷静な質問を投げかけた。しかし、返事はない。
「返事してくださいよ」
銅貨の表情に変化はない。代わりに女性の声が聞こえた。
「床に置きっ放しはイヤなのだけれど」
床に目を向ける。この中で女性が話しかけてくるといえば、この一枚しかない。
僕は五千円札を手に取り、ダンボールの上に置いた。
「そうそう、テーブルに…ってこれはダンボールです」軽快な口調で話すのは、もちろん樋口一葉だ。
「すみません、いまこの家にこれしかなくて」
「いや、僕たちもそっちに」
新たな声が割って入る。どう考えても、千円札か一万円札のどちらかだ。
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