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ただ、僕のイメージとして一人称を『僕』と呼びそうなのは、野口英世さんだった。
「ほら、いま目が合いましたよ。僕も、そちらに置いてください」
やはり野口英世さんだ。
念のために、福沢諭吉もダンボールの上に置いておく。
「まったく私たちを床にばら撒くなんて、ひどい扱いですよ」
一葉さんが眉間にしわを寄せる。
「すみません…、以後気をつけます」
「そんなことより、御二方はご存知ですか?お札の人物画が代わるらしいですよ」英世が言う。
「みたいですね。私は、まだ代わりたくないのですけど」
「僕だってそうですよ。お札でなくなったら、絶対名前を忘れられちゃいますよ」
「たしかに、そうですね」
「そうです。僕が研究していたのは黄熱病だって、何人の人が知っていることか」
僕も、いま英世さんの口から黄熱病だと知った。
「クイズ番組とかで『旧千円札は誰だったでしょう』って問題になったときに夏目さんは出てきても、僕は出てこないとかありそうじゃないですか」
言われてみればそうかもしれない。話を聞きながら少し冷めた牛丼を口に運ぶ。
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