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溜まったお湯に石鹸とタオルを浸し、タオルをよく絞ると、そのまま体を拭いていく。
「僕は、どちらでもないですね」
一葉を珍しいと言ったわりに、英世はどちらにも属していなかった。
「レジはレジで乱暴に扱われることないですけど、たくさんのお札と密集しながら暗闇にいるのは、ちょっとしんどいですよね」
なるほど。人だって暗闇にぎゅうぎゅうに押し込まれることは好まない。お札も同じ思いを抱いているようだ。
体も拭き終わり、頭も洗い終わった。明日は大事なオーディションだ。このお札たちはいつまで話しているんだろうか。
「たまにさ、お札にシミがついてる札いない?」
「います、います」
「しかも、何を溢されたのっていうくらい臭いときあるじゃない」
「わかります、そういうお札とたまに、レジで上下になるんですよね」
「最悪よね、あれ。一度レジに入るとなかなか抜け出せないから。あとさ…」
一葉さんの口が止まらない。それに英世さんが呼応し続ける。諭吉さんは、聞こえないくらいの声量で「僕、お札から引退なんだ…」と、落ち込み続けている。
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