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「こちら、温めますか?」
「お願いします」
無表情な僕の返事を聞いて、店員はカウンターに置かれた一つ五百円もしない牛丼を手に取る。値札シールに記載された温め推奨時間を確認すると、乱暴に電子レンジを開けて、そっと牛丼を置いた。
そこは丁寧なんだな、と思った矢先にガシャンッと強めに扉を閉め、温めを開始する。
その音を聞いた隣のレジに立つ店員が睨むようにこちらを見た。
「お会計が、四百二十九円でございます」
僕は財布から二枚あった五百円玉を一枚取り出し、角形で青色のコイントレーに惜しみながら置く。
「五百円お預かりします。お返しが七十一円になります」
コンビニ店員からお釣りを受け取り、しっかり確認した上で財布に入れた。
「もう少しでお弁当が温まりますので、もう少しお待ちください」
僕は黙って頷き、カウンターから少し横にずれた。
いつもより奮発して牛丼を買うことに決めたのは、明日が大事なオーディションだからだ。
店員が僕の後ろに並んでいた客の相手をしている間に、ピーッと電子音が鳴る。また乱暴に電子レンジを開け弁当を取り出す。
レジ袋を広げると、素早く弁当を入れ、おしぼりを一つと箸を一膳を続けて入れる。
「お待たせしました」と、笑顔で袋を差し出す。
どうも、とだけ返し袋を受け取ると足早にコンビニを出た。
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