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ゴスロリ姿のわたしは、地上四階の〈レキシントン・クイーン〉の扉で迷っていた。 たしかに昨夜はやる気満々だった。たまたま毎月買っていた、読者投稿や実話系の雑誌「DON!」の広告に、 「女王様(ドミナ)募集!」 というのが載っていた。 それで惹かれたわけじゃない。その広告のドミナの恰好が、ラバースーツだったから。 わたしは福居ショウジン監督の「Rubber's Lover」を観てから、ラバースーツに憧れてきた。一度でいいから、肌を漆黒(しっこく)の薄いゴムで覆われてみたいと……。 「あれ、お人形さん?!」 という声が背後から奇襲をかけてきて、わたしはきゅっと二の腕を掴まれ、そのまんまドアの向こうに連行されてしまった。 「お人形さん、お持ち帰りー!」 と振り向くと、今はにこにこしているものの、素の顔は権高(けんだか)な面差しのお姉さんが立っていた。 「エリカちゃんお疲れさま、そしてあなたが**さん?」 ──は、はい、十五時三〇分に面接を予約していただいた**です。 エリカという源氏名のお姉さんにおそらくかなりの金額を封筒に入れるのを見て、わたしにもワンチャンあるのかも、と思う……。 「**さん、まずは当店への面接ありがとう、けれど、あなたはドミナ体質なのかしら」事務の女性が言う。 「ラバースーツを着てみたくて、あ、あとお金が、帰り道の電車賃も無いんです」 胸元をけっこう強調したブラウス姿の事務の女性が破顔一笑した。 「面白い子ね。マックスが気に入りそう。ちょっとこのパソコンの前に座ってみて、今ならあいているかもしれない」 モニターにはスカイプが起動している。そしてモニター上部にはクリップ式に取り付けられたウェブカメラが。 さっきの女性が電話でスカイプをかけるよう連絡している。 発信音が鳴り、通話開始をクリック。 ──はじめまして、わたしはマクシミリアン、〈レキシントン・クイーン〉に応募してくれてありがとう。 「はじめまして、**と申します」 ──ドミナとしての経験はありますか? マクシミリアンと名乗るカメラ越しの雰囲気は、精悍そうで白髪(はくはつ)がかなり目立つ年齢の男性だった。 ありません、と正直に答えるとマクシミリアンは笑った。
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