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美々の両親は共働きだ。
母親は派遣社員。父親は家からほど近い自動車部品工場で働いているが、疫病が世界中に蔓延した煽りを受け、どうやら二人とも失職した。
直接両親から聞いたわけではなく、二人の会話を断片的に聞いて美々がそう判断した。
両親は二人とも、美々が何も分からぬ子供だと思って、会話を隠そうともしない。
誰も彼もが美々を猫可愛がりするが、10歳は大人だ。皆が思っている以上に。
込み入った話は理解できないと高を括っているのだろうが、甘く見ないでほしいと思う。
表情、空気感、そんなものからいくらでも状況を察することができるのだから。
美々の両親は二人とも天涯孤独の身で、長く貧乏生活をしていたらしい。
結婚したあともしばらくは6畳一間のアパートで暮らし、働いて働いて働いて、何とか今のマンションに引っ越した。それでも、築30年のキレイとはとても言えない古い部屋だ。
二人とも貧乏には慣れているせいか、食べるものも着るものも贅沢は一切しなかった。しかし、美々には惜しみなく金を使う。
浴びるように愛情をもらい、何不自由のない生活をさせてもらっている。
小さいなりに考えていた。
これだけ両親が身を粉にして働いているのに、美々だけがただのんびりと日々を過ごしていていいのかと。彼らのために、何かすべきことがあるのではないのかと。
「美々が私たちの生き甲斐なのよ。あなたの成長が何より楽しみ」
そう言って母はよく美々を撫でた。
優しいその手のひらはいつも温かいけれど、痩せて骨ばっていた。
美々は思った。
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