大切なあなた達に私ができる最高のこと

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 振り向くと、そこにいたのは幼馴染のブッチで、美々の方を見ながらニヤニヤと笑っていた。彼も一人で商店街をフラフラしていたようだ。 「お前、働くって何言っちゃってんの?」  うるさい、ブッチ。  ブッチの意地悪な笑みにムッとするが、今はそんなことに構っている余裕はない。   「なんだ、デートだったのかい。楽しんでね」  とのじいは、美々がブッチと話しているのを見て誤解をしたか、ニコニコと笑って奥へ引っ込んでしまった。  とのじい!  美々は大声で呼んでみたが、とのじいは戻ってくる気配はなかった。また失敗した。  美々の項垂れた姿を見て、ブッチが怪訝な表情をする。 「どうしたんだよ? 何でそんなことしてるんだ?」  ブッチには分からないよ。お父さんとお母さんのピンチなの。私が何とかしてお金を稼がなきゃいけないんだよ。   「お父さんお母さんって……。修二さんと未希子さん、大抵いつもお金ないじゃん。大体、お前が仕事をして金なんかもらえるって本気で思ってんの? そんなの、ちょっと考えれば無理だって分かるだろ」  だって! 二人とも失業しちゃったの! 娘の私が助けてあげないと、二人とも飢え死にしちゃうよ。      ブッチは心底呆れたといったようにため息をつく。 「……お前、あの人達に恩があるのは分かるけどさ。あんまり入れ込みすぎない方がいいと思うぞ。俺らがこうやって一人で出歩くのだって、それだけで危険と隣り合わせなんだぞ」  そんなの、ブッチだってそうじゃん。 「俺には心配してくれるような親兄弟はいないし、いいんだよ。俺だって、お前んとこみたいな優しい親がほしいよ」  ブッチはどこかふてくされたような目をしてそう言った。  美々はきゅっと唇を結ぶ。これ以上ブッチと話していても時間の無駄だ。  おい――という彼の声を無視し、美々は先へ進む。当てがあるのは次が最後だ。母が好きな洋菓子屋、ソレイユ。  店の前には、先客が数名いる。接客をしているのは、学生アルバイトの石田だ。優しくて美々のことも良く知っている。美々はホッとした。   客が全員掃けると、石田は店先で小さくなっている美々に気付いた。 「あら、美々ちゃんいらっしゃい! 今日は一人なのね」  わざわざレジから離れて美々の側までやってくる。  もじもじとする美々に優しく微笑み、かがんで頭を撫でてくれた。 「どうしたの? まさか迷子じゃないわよね?」  あのね、石田さん。私……。    美々はそこまで言いかけると、それっきり口をつぐんでしまった。  ブッチの言う通りだ。  使命感に駆られてここまで来たが、冷静に考えれば美々が仕事をして給料をもらうなんて不可能に決まっている。最初から、頭の隅っこでそれは分かっていた。それでも、行動を起こさなければ気が済まなかったのだ。両親が金に困ってため息をついている。その横で、のうのうと与えられた食事を取って暖かい部屋で眠ることがどうしてできよう。 「美々ちゃん、何だか悲しそうね。どうしたの?」  石田の美々を撫でる手が一層優しくなる。石田だけは、いつも思うように気持ちを伝えられない美々のことを理解してくれる。 「私、もうバイトあがるの。お家まで送っていってあげる。一緒に帰ろ?」  美々は泣きそうな顔で石田を見上げ、そして何も言わずに項垂れた。  いつまでもこの商店街にいたところで、何かを得るどころか両親を心配させるだけだ。                                               
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