大切なあなた達に私ができる最高のこと

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「さ、着いたよ」  石田は古くて安っぽい音のインターフォンを鳴らす。 「未希子さん、こんにちは。石田です。美々ちゃんが一人で商店街に来ていたので、一緒に連れてきました」  息を飲んだような声がインターフォン越しに聞こえたかと思うと、すぐに玄関ドアが開かれた。 「美々!」  母の未希子が焦った声で飛び出してきた。  化粧をしていないせいか、顔がいつもより青ざめているように見えた。 「石田さん、わざわざごめんなさい。連れてきてくれてありがとう。朝起きたら美々がいなくて、私もうパニックになっちゃって……」 「そうですよね。美々ちゃん、一人で商店街に来たの初めてですよね?」 「美々、どうしたの? ソレイユさんのお菓子が食べたくなっちゃったの?」    未希子は石田の腕の中にいる美々を覗き込むように言った。  あ。と言った石田は、思い出したように右手で持っていた小さな箱を差し出す。 「そうだ、これ。未希子さんと美々ちゃんの好きなスイートポテト。どうぞ」 「えっいいの? ありがとう石田さん。美々を連れてきてもらっただけじゃなくこんなものまで……」  石田は、美々を左手で抱き直すと、気づかわしげな顔で未希子を見る。 「いいんです、こんなことぐらい。それより、修二さんも未希子さんも大丈夫ですか? 商店街のみんな、もしお二人が困っていたら助けようって、みんなで言ってます」 「ありがとう。嬉しいわ。でも私達は昔っから皆さんにお世話になりっぱなしだもの。少しは自立できるようにならなきゃね。今、私は家でできる仕事を探しているの。修二さんも日雇いの仕事がないか探してる。希望は捨てないで頑張るわ」 「それならよかった。……美々ちゃん、多分お菓子が食べたくて商店街になんてきたわけじゃないと思うんです」  美々は思わず石田を見上げた。 「美々ちゃんてとっても賢いです。修二さんと未希子さんのことをよく見てる。だから、二人が大変な状況なこと、この子は理解しているんじゃないかな。それで困って商店街に来たんだと思うんです」  やはり、石田は理解してくれていた――。  美々は、こみ上げる思いを何とか抑えて母を見る。未希子もハッとした表情を見せ、それから切なげに美々を見つめる。    お母さん、私、お父さんとお母さんを幸せにしたいの。  二人が私にしてくれたように、ううん、それ以上のものをあげたいの。   「美々……。ごめんね、どうせ分かりっこないと思ってあなたの目の前で色んなことしゃべってたけど、あなたはちゃんと理解してたのね。……おいで」  未希子は両手を広げた。  美々がおずおずと体を預けると、未希子は自身の胸の方へしっかり引き寄せる。 「心配かけちゃったのね。ごめんね、美々。でもね、心配いらないよ。私達はあなたが側にいれば何だってできる。あなたを守りたいという思いが、私達の元気の源なの。親は子供のためならどこまでだって強くなれるのよ。だから、黙ってどこかに一人で行かないで」  未希子は美々を抱きしめた。  美々が両親の側にいること。たったそれだけでいいのか。  美々が彼らに与えられる最高のギフトは、彼らの側を離れず、ずっと寄り添って生きていくことなのか。  チラと石田を見る。  ほらね、言った通りでしょ。そんな台詞が聞こえてきそうな誇らしげな顔をしていた。   「これからもずっと一緒よ。美々。少し間、ご飯が質素になっちゃうかもしれないけど許してね」  そんなこと。両親とずっと一緒にいられればそれでいい。  あ、そうか。  両親も全く同じ気持ちだったのだ。美々はやっと気づいた。   「みゃあ」  美々は、首を伸ばして、精いっぱいの気持ちを込めて「大好き」と言った。
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