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可憐な白の花を、少年は手に取った。
「白いバラ。花言葉は……私は貴方にふさわしい」
「誰がどのツラさげて言ってるんだよ……」
若干イラついてる様子の獣人に構わず、小さなピンク色の花が咲いた茎を少年は手にした。
「これはリナリアだ。花言葉はこの恋に気付いて」
「何か聞いてて腹立つな」
「君の勘違いだよ。この花を贈ってくれているのは、奥さんじゃない」
「じゃあ旦那か!」
そう獣人が怒ると、少年は声を上げて笑った。
「ははっ……あの夫妻は君が思うような人達じゃない。旦那さんでも無いよ。わかるように説明しよう」
少年はバラバラにしていた花を集め、巻かれていたリボンで花を束ね直した。
「あの夫婦がここに来たのは、六歳の娘さんが呪いに掛かったからだ。突然声が出なくなったらしい。それは妖精のイタズラで、一時的なものだから妖精の好きな甘い物を店先に置いておけば、きっと返してもらえると助言した。ついでに、うちで売ってるジャムをお土産に持たせたんだ」
「あー、俺は畑弄ってたからちらっとしか見てねぇけど……そういう感じだったのか。妖精のイタズラねぇ。さすが、先輩なだけあるな」
「調べていたら自然と詳しくなっていっただけだよ」
謙遜する少年を横目に、獣人は手で口許を拭った。そして、畑仕事の合間の光景を思い出した。
「そういえばあの時、子供も居たか?」
「あぁ。両親にべったりで君からはよく見えなかっただろうが、娘さんも来ていた。娘さんの話で来ていたんだから、当然だろ?」
「まぁな。あ……もしかして、お前に花束を贈ってるのは……その娘か?」
少年はその通りだと、こくりと頷いた。
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