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(あの渦の中に突っ込むのか)
イオタロウレイナは脂の細かい泡が噴き出るのを覚えた。
彼は膨大な黄土色の渦の世界を覗きこんでいた。未知の地に潜む名状しがたい恐怖は、深く、深く、じわじわと心の奥へ浸み込んでくる。何かが彼を吸引して、抗うことができぬまま渦の中心に引き込まれていくような感覚だった。
かすかな後悔が彼の脳裏をよぎった。
「お前の決意はそんな程度か」飛龍の声が、見透かしたかのように響いた。「フォーマルハウト人のクタウバに会うにはこれしか方法がないのだ。みんなお前に協力しているのに、臆病風に吹かれてどうする? しかもまだ戦いは始まっていない」
(こんな惑星を実際に見るのは初めてだから、ちょいと驚いただけさ)
イオタロウレイナはとりつくろった。
蛾餓鬼族のメスキータがあいだに入った。
「怖がることは恥じゃねえ。慎重さも大事だ。だが、勘違いするなよ。俺らがデバランへ向かうのはな、デバラン人の屍肉を持ち帰り、屍牧場にその種子を蒔くことにある。そうとうな美味だと、外なる神の教義にあった。デバランへは前々から繰り出したかったンだが、船の手配がむずかしくてよ。今回はまさにいい機会だった。利害が一致したってことよ。
ところで、あんたが人間の記憶に固執してる理由は何だ?」
(俺が身体を間借りしていることに原因がある)
「間借りだと?」
メスキータは興味を持ったらしかった。
(俺は白き宇宙の扉に潜む神格だったらしい)
「へ、あんたが。そんなブヨブヨの脂の塊が神格とは思えねえ」
蛾餓鬼族の戦士は細長い管状の口を揺らして嗤った。
その時、床が大きく揺れた。
飛龍の緊迫した声が流れた。
「デバランの大気圏に突っ込むぞ。みんな踏ん張れ!」
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