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 俺は戻るのだ。  彼は自分に言い聞かせた。  あのゴミ処理惑星でいつまでも過ごすつもりはない。再び、白い宇宙の扉に潜む神格者として君臨するのだ。  そのためには座標軸外の虚数津波がどこから来て、どこへ行ったのかを知り、原因を探り、対策を練らねばならないのだ。  イオタロウレイナとは何か。  驚くべきは、この(おん)には禍々しい暗示がない。むしろ、清冽で相互に呼応するような深みが啓示されているようだ。  以前、飛龍は語ったことがあった。  お前たち暗黒界の神格者や異形者には「慈愛」を解せまい。そもそもその概念がないのだから、理解は不能であろう、と。  かつての<白い宇宙の扉の番人>は、その答えは遠い記憶の深奥にあるのではと、推測した。つまり虚数津波に飲み込まれる前の世界に。  その答えを求めて、俺はここまでやってきたのだ。  嚢胞球体の頭部から小さな気泡が浮いた。  飛龍(ドラゴン)の声が伝わってきたのはそのときであった。 「悪い知らせだ」ガクンと壁が大きく震動した。「おれたちはバデランの嵐に追尾されている。バデラン人は地底海の都市から嵐を操っているらしい」  警告的な含みを持ち始めている。 「くりかえす。バデラン人は油断のならない種族だ。これから緊急回避行動に入る。状況により強襲戦闘に持ち込む」  船内はひっそりと静まりかえった。戦闘準備の危惧とは異質のものだった。息をひそめて待つ野獣たちの期待をはらんだ静けさだと、イオタロウレイナは悟った。 「おいらたちは、招かざる客だからな。事前のお知らせもなく飛び込むわけだから、連中にしてみれば厄介者だ」  棒族のヤゴが茎状の胴体から二本の放電葉を伸ばし、相互に接触させると緑色の火花が散った。猛烈な放電閃光は、敵を瞬時に黒焦げにして粉々にさせるというが、イオタロウレイナは実際にその光景は見たことがない。  蛾餓鬼族の戦士たちもそれぞれの姿勢を整えていた。直ちに短剣が抜けるように手をだらんと下げている者もいれば、背負った鉾の柄に手をかけている者もいる。  俺には効果的な武器があるだろうか。  イオタロウレイナはぶくぶくと泡のように膨張している球体をうっとうしく思った。彼の嚢胞球体の内部核は溶解性の火山のようなものだ。それを呼吸孔から噴霧させることや鋭い鏃にして射ることはできる。鏃の先端に爆裂火薬を装填すれば甚大な破壊力が得られるはずだが、如何せん、彼は戦士ではないのだ。
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