プロローグ

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 ()は、は返事の代わりに、体から脂肪嚢胞を飛ばして、大小さまざまな残骸に被膜を巻きつけた。遠隔操作で上昇させて、荷台に入れていく。 「無愛想なヤツだなあ。ちっとは面白いコト、言ってみろよ」  棒族は鋭い枝のような腕をのばして、()の嚢胞をざくざくとつついた。  ()は球い体を揺らした。 (きょうは黄色い石と骨を分別する。あしたは遭難した宇宙船の残骸整理だ。まだ使えそうな恒星間航法機にへばりついた生命体の遺体剥がしをして、航法機は倉庫に仕舞う。遺体は有用有機粉末に精製して、これも倉庫に仕舞う・・・これで満足したか) 「わかったよ。あとで、凌ぎ場で会おうぜ」  凌ぎ場とは、この世界の種族たちがたむろして、わいわいやる場所である。  その次の日は、ほつれた時間とねじ曲がった空間の端切れの始末が待っている。時間と空間を必要とする高度文明や旧宇宙の創始者層への譲渡用に仕分けする厄介な仕事だった。  それらの完成品(・・・)は、空の穴から飛来する飛龍(ドラゴン)の太い胴体に積み込まれ、遠くの異世界へ運ばれていく。  一連の流れの中で、人間の記憶物質が見つかれば、()はそれを己の体内に取り込むことが許されていた。  なぜなら、彼はかつての記憶を取り戻すことを望んでいたから。  人間の記憶物質といっても、彼が望む記憶が取り込まれることはほとんどなかったのだが。  以前、飛龍は、希少鉱物塊といっしょに辺境星域の断片記録を持ち帰ったことがあった。  その星域は黄色い太陽を主星とし、九個の惑星を有し、ことに第四惑星には緑の植物と深く蒼く清冽な水をたたえた峡谷があり・・・それはともかく、記録媒体に記された<イオタロウレイナ>という(おん)は、うねりのように、彼の深層触覚を襲ったのである。    
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