アルバロの孤高の鷹

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アルバロの孤高の鷹

―2026年5月9日、仮想世界ビーギンの街 陽輝とミリアは宿屋でもう一泊した後、改めて活動資金の枯渇を防ぐためにクエストカウンターに来ていた。 「おおっ、こないだうちに来てくれたお得意さんの兄ちゃんじゃねぇか!そっちにいる角生やした女の子は……彼女さんかい?」  前に陽輝にクリア条件が恐ろしいクエストを紹介してきた金髪リーゼントの男がまたしても陽輝に声をかけてきた。 「彼女じゃ無いですよ!それにこの子は僕の剣なんですよ!」 「なっ……まさか兄ちゃん、俺のクエストをマジでクリアしちゃったのか?」 「えっと……そうなります、ね」 「……マジかぁぁ!ついに、ついに……俺のクエストをクリアする強者が出やがったぜぇ!」 金髪リーゼントの男はさぞかし嬉しそうに喜んだ。そして、その余韻に浸る形でお酒をぐいっと飲んだ。 「な、なぁ……陽輝ぃ。何だか……クラクラしてきたんだけど……」 ミリアはほんの少しだけ顔が赤くなっていた。 しかもどこか足取りが千鳥気味になっていたのを見て、陽輝はすぐに彼女の身に起きたことに対する察しがついた。 「ミリア、一旦座って水飲んで」 「ふぇぇ?なんで?体は何ともないよ?」 (まさか……ミリアって人一倍嗅覚に優れてたりするのかな?だとしたら、僕ですら少し酒臭いと思うこの瞬間にミリアはその倍それを感じてることになる!どうりで飲んでなくても酒に酔ったような感覚になるわけだ) 状況を冷静に分析しつつも、手際よくミリアを介抱した陽輝は、彼女を落ち着かせたところで自分たちに合いそうなクエストの紙を探して何枚か持ってきた。 「ねぇミリア、こんなのなんてどうかな?」 「ん……どれどれ」 〈西の街アルバロにてリザードマンとホークマンの騒乱が勃発している。今はまだ小さな騒ぎ程度だが、いつ対戦に発展するか分からん。頼む、誰か止めてくれ!〉 「んー……フフフン、ミリアはいつでもやる気だぞー!」 「わ、分かった……ひとまず、剣になって僕の腰に」 「分かったー!」 ミリアを紫色の鞘に納まった剣に変化させ、自分の右腰部分のベルトに付け、手続きをすべく席を立った。 その道中で、酒場の人たちの会話に妙なものがあったのか、陽輝はその会話に耳を傾けつつ向かうことにした。 「アルバロに向かうってのか?やめとけやめとけ、今あそこは相当ヤバいらしいから!何でも…日中戦ってるって話だ」 「特にここ最近、“孤高の鷹”って恐れられてる奴がリザードマン陣営の2軍部隊を壊滅させたらしいぜ」 「おい、兄ちゃん……二本も剣持って一体どんなクエストを受ける気だい?」 二振りの斧を背中にしまっている中年の男性が陽輝を呼び止めた。 「アルバロって街へ行って、そこにいる人たちを助けようって思うんだけど……」 「そうか……“孤高の鷹”に気を付けるんだな。奴は相当の手練故、己を止めれる者が居ないと聞く。油断するなよ、兄ちゃん」 「は、はい……」 陽輝は新しい街へ行くという期待とそこで行われていることへの不安で胸が一杯になりながら、アルバロ近郊に向かうカヌーに乗り込んだ。 ―一方その頃、西の街アルバロ近郊の湿地帯 リザードマン陣営の第2拠点とも言えるこの場所は今まさに“孤高の鷹”と呼ばれる一人のホークマンに襲撃されていた。 「ひっ、怯むなぁ!相手は一人だけだ、こちらから囲んでしまえば怖くはない!リザードマンの強さを思い知らせるんだ!」 「「おおーっ!」」 「どいつもコイツも大したことない……お前たちリザードマン如きがホークマンに逆らったこと自体が間違っている!湿地帯はお前たちのみに与えられた物ではないと何度言えば分かる!」 “孤高の鷹”と恐れられているホークマンはその手に持った双剣で旋風を巻き起こし、防衛壁を一瞬で壊してしまった。 「ぐっ……引くな、突撃だ!全軍、前へ!」 「このバーバラムに楯突く愚民共よ……その命、誇り高きお前たちの国王に返上しろ!」 バーバラムの双剣が一瞬青く光った次の瞬間、先程よりも凄まじい竜巻が発生し、辺り一面を更地に変えてしまいそうなくらい激しく暴れ回った。 突風が止んだあと、バーバラムの元に一人の少年がやって来た。依頼を受けてこの地に赴いた陽輝だった。 「さっきの凄い風はあなたが起こしたものなんですか?」 「だとしたら、何だという?」 「この湿地帯の近くに集落があることはあなたも知ってるはずでしょ?他種族同士の争いに小さな集落を巻き込むなんて間違ってる!」 陽輝は赤い瞳でバーバラムを強く睨みつけた。その瞳には純粋な怒りが込められていたが、どこか怒りとは別の何かを漂わせてもいた。 「状況も知らぬお前に何が分かる!」 バーバラムは陽輝目がけて青い光と質量を持った斬撃波を飛ばしたが、なんと陽輝はそれを〈ヴァーミリオン〉と自分の持っていた剣で受け止め、無力化した。 「あなたの話を聞かせてください……その話の内容によっては、僕はあなたを斬ります!」 「……」 湿地帯が静かになり、凍り付いた。
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