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あまりのまばゆさに目がじんと痛んで、何度かまばたきをした。雲の切れ間からまっすぐ陽の光がそそいでいる。湿気をふくんだ木陰の涼しさもどこへやら、寝ているあいだにすっかり影は移動していた。こんな場所で寝るつもりはなかったが、あまりの心地よさについ寝入ってしまったらしい。
ようやくまともな視界をとりもどしたとき、目の前に黒い青年が立っていることに気がついた。怜悧にこちらを見下ろす彼は無表情にも怒っているようにも見えたが、そうでないことをウォーブラはよく知っている。
「よう、リヴィ。さがしに来てくれたのか」
しっとりと艶のある髪を分けるように伸びた二本の角は、彼が竜の血にまつわる種族だということを表している。だが、最たる象徴といえる両翼は、その背にない。共に旅を始めてもう五年は過ぎているが、その理由をリヴィが話したことも、こちらから訊ねたこともない。
「もどるぞ」
聞き慣れた心地よいテノールの声が、短く響く。くるりと踵を返した彼の背中は、自分よりうんと大きい。ウォーブラは垂れた三つ編みを背中にまわし、追いかけた。
「イオは?」
「かんかんだ。昼飯になっても帰ってこないと騒いでいた。急がないと昼飯がなくなる」
「そりゃ困るな」
と、二人は足を止め、同時に視線を交わした。刹那。
ザッ! と地面を蹴る音と共に、無数の影が四方からとびこんできた。ウォーブラは同時に襲いかかってきた3匹を薙刀で一蹴。数瞬遅れたタイミングを狙ってきた一匹を、リヴィが長剣で切り伏せる。続けざまに、さらに二匹。薙刀を樹のみきに取られないように柄を短く持って、死角から襲ってくる気配を貫いた。獣の死体をする。白く変色した歪な毛並み。
「ガルウルフの魔種か。ご一家登場って感じ?」
「ご一家、というには数が多いな」
「なぁリヴィ。急がなきゃ、困るよな」
にぃ、と口の片方をつりあげ、背中を守るリヴィにささやいた。
「昼飯、食いたいよな」
迫るガルウルフの牙をかわし、とっさに横腹を穿つ。裂いた腹から、小さな魔鉱石の欠片が散った。
「魔獣はいちいち相手にしてらんねえよな」
「……ああ、だが――、」
「なら決まりだ! 走れ!」
返事に間髪入れずリヴィの腕をひっつかみ、ウォーブラはかけだした。邪魔なウルウルフだけを適当にいなして、その先、森がひらけた場所を目指す。そこでようやく、意図に気がついたらしい。めずらしく声を荒げた。
「待てウォーブラ、何をする気だ!」
向かう先は森が広くひらいていて、遠い空が広がっている。その下に続く地面は、ここからでは見られない。
「わかってんだろ、相棒。近道だよ!」
ウォーブラは豪快に笑うと、リヴィの腕を離さないままひときわ大きく地面を蹴った。
「ひゃっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉうッ!」
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁああああッ!」
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