169人が本棚に入れています
本棚に追加
第一話【1】
赤が、にじむように揺蕩っていた。
それが自分の色だと気づいたのは、指先の感覚がもうなくなってしまってからだ。ずいぶんと長く伸びた髪の毛が濡れていたから、血のようだと錯覚してしまったらしい。
それだけじゃない。
俺はこれに似たような光景を見たことがある。忘れるはずも、忘れられる理由もない。
あの時、血だまりに横たわる君の手を必死に握った。助けようとしたその手は、冷たく濡れていた。
自分の目のふちから、ぼろぼろと感情があふれた。感覚のない、棒きれのような手で必死に何かを探す。不意に、パシャンと水を叩く音が遠くから響いた。白くぼやけた視界に、事切れたように自分の腕が横たわっている。
―――自分が死ぬ夢を見るのは、これで何度目だろう。
最初のコメントを投稿しよう!