第2話「体育祭」

2/11
前へ
/158ページ
次へ
嵐のような(実際に突風は吹いた)2-A初日を終え、通常授業が始まった。【1時間目から5・6時間目まで授業、放課後は部活】という日々の生活リズムに関しては徐々に戻りつつあったが、やはり変化の方が大きく、新鮮さを感じる日々が続いた。新しいクラス、新しい先生、新しい教室、新しい教科書…。授業の度に色んな『新しい』が増えていく。 この辺りはある程度予想できた事だったが、悠斗にとって1つだけ、予想出来なかった『新しい』が生まれてしまった。 悠斗の通う虹ヶ丘中学校では、提出物を回収する時、最後列の席の生徒が同じ縦の列の生徒の提出物を集め、教室の1番前にいる先生へ渡す。 現在出席番号順と同じ席順の為、出席番号3番の悠斗は前から3列目の席に座っている。そして同じ列の最後列に座っているのが出席番号5番の拓哉。この場合、拓哉が悠斗を含む同じ列の生徒達の提出物を集めて先生へ渡す事になる。 この日、教室の後ろに掲示する自己紹介カードを提出する事になっており、悠斗は机の上を片付けながら拓哉が後ろからやって来るのを待っていた。 バサッ 悠斗の前髪が勢い良く持ち上げられ、彼の広いおデコが露になる。 「ごめ~ん、カードと間違えて前髪回収しちゃった~」 「!!」 拓哉だ。油断した! 悠斗が反撃に出る前に拓哉は机の上の自己紹介カードを手に取ると、笑いながら前進していっていた。 「あー!もう!」 悠斗は悔しそうに呟いた。 こういうイタズラに関しては悔しいが拓哉の方が上手だ。 「ああいうのは瞬発力が大事だから!悠斗も感覚鍛えないと!」 隣の席で、同じくおデコにコンプレックスを持つ井上から声をかけられた。彼女とは写真撮影の一件以来仲良くなり、いつの間にか『悠斗』呼びになっていた。 「瞬発力っていっても…バスケ部の井上さんみたいに俊敏に対処できないよ」 女子を呼び捨てにするのは気が引けるので、悠斗は彼女を『井上さん』と呼んでいる。 「ちゃんと鍛えていかなきゃ負けるよ!ほら、帰って来た!」 先生に集めた自己紹介カードを渡した拓哉がニヤニヤしながら戻ってくる。あの顔は間違いなく前髪をかっさらおうとしている顔だ。 先手必勝!前髪をとられる前に悠斗は人差し指を拓哉の脇腹に突き刺す。 プニっとした感覚。 「うひゃあ!」 拓哉が思わず声を上げる。 「ごめ~ん、良い腹してるからつい刺しちゃった~」 悠斗は意地悪そうに言った。隣で井上はガッツポーズをしている。 「やったなーデコデコ!!」 「トントンのお腹が立派なのが悪いんだよ!!」 「お前らうるさい」 2人の間に挟まれた出席番号4番【江口(えぐち) 智彦(ともひこ) 】の鋭い一言で 2人は小競り合いを止め、大人しく席に着いたのだった。 このやり取りが毎日の様に行われている。こんな小競り合いをする相手が現れた事、そしてその相手が拓哉である事こそ、悠斗にとって予想出来なかった『新しい』ものだった。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

142人が本棚に入れています
本棚に追加