第2話「体育祭」

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放課後、悠斗は教室で慎太郎を待っていた。先日入学した新1年生達の部活見学期間が今日からスタートする。流石にお喋りしている姿を見せる訳にはいかないので、悠斗も慎太郎も普段幽霊部員の奴らもしばらくは真面目に創作するつもりだ。全員は来ないだろうが…。 「悠斗ー、行こうぜ」 慎太郎がやって来た。 「オッケー」 悠斗は席を立ち、鞄に手をかける。 「あ!慎太郎じゃん。久しぶり!」 「おー!拓哉!元気ー?」 悠斗の2つ後ろの席にいた拓哉が慎太郎に声をかけた。 「今は元気ねぇなぁー。あーぁ、悠斗が手伝ってくれないから…」 「なんで手伝わないといけないんだよー!これから部活なんだから!」 「俺だって部活だしー!」 拓哉は今日提出の英語の課題を忘れてしまったため、居残りさせられている。 「そもそも、小野くんが課題やって来なかったせいだからね!はい、頑張って!」 「ケチ!ケチケチデコデコ!」 「じゃあねー、ボケボケトントン!」 悠斗は教室を出ると、慎太郎と合流して美術室に向かった。 「やっぱりお前ら仲良くなったよなー」 移動中、慎太郎が驚いた様に言った。 「そう見える?言い合いばっかりしてるけど…」 「言い合いってもなぁー、端から見るとチビッ子同士ワチャワチャしてるだけというか…」 「こっちはやりたくてやってるわけじゃないんだよー!小野くんがつっかかってくるから…」 「ま、そうだろうな。ところでさ、まだ"小野くん"呼びなの?"拓哉"で良いんじゃね?」 「う、うん、そうなんだけど…」 慎太郎に聞かれて、悠斗はドキッとした。 実の所、悠斗も彼を"拓哉"と呼べるようになりたかった。ただ昨年1年間ずっと"小野くん"呼びだったため、切り替えるタイミングが分からずにいる。名前呼びに変えたときの拓哉の反応も読めないし、仲良くなった事をこちらから素直に認める感じがして、なんだか恥ずかしかった。 「"トントン"呼びしてる割に普段は"小野くん"呼びなんだもんな。仲良しなんだか違うんだか」 慎太郎は笑いながら言い、すぐに次の話題に移った。しかし、悠斗の頭はこの『"拓哉"呼び問題』から移ることはなかった。 今日の部活ではキャンバスを貼り、絵の下書きを始めた。新入生も多くはないが、見学に来てくれたので、慎太郎も他の皆も真面目にしていたが、悠斗の頭は先程の問題の事でいっぱいだった。 『確かに昨年よりは仲良くなった。けど、名前呼びが出来るほど仲良くなったのだろうか…』 拓哉は昨年から"悠斗"呼びをしている。最近仲良くなった井上ですら"悠斗"と呼んでくれている。悠斗が気にしすぎなだけなのだが、 どうしても考えずにはいられなかった。 この日は結局悠斗だけ、絵の下書きがほとんど進まなかった。
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