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次の日も風は強いものの良く晴れ、春の陽気を感じさせる朝だった。しかし、悠斗の心は依然曇り空、それどころか雷雨にでもなりそうだ。
クラス替え初日は新しい教室に移動後、簡単なホームルームで終了した。しかし、今日は1時間目~5時間目までミッチリある。まだ各教科の授業は始まらないが、『学級開き』『自己紹介』『班での昼食』『クラス写真撮影』とイベント盛りだくさんな1日だ。今日誰かと仲良くなれるかどうかで今年1年間がどうなるか、早くも決まる気がする。2年生になって新しい場所になった靴箱に外靴をしまい、上履きに履き替える。校門を過ぎた辺りから強くなっていた胸の鼓動が更に激しくなる。いよいよ2-Aの教室の前だ。
悠斗はこっそり深呼吸をし、教室に足を踏み入れた。
少し早めに着いてしまった事もあり、教室にはまだ人が少ない。視線が悠斗に集まる。
『この人誰だ?元何組??』
『あ、隣のクラスだった人だ』
『1-Eの時保健委員だった人じゃん!』
皆の視線が色んな感情を物語っている感じがした。皆に「おはよう!」なんて言えるキャラではないので、視線に居心地の悪さを感じつつだまったまま席につく。次の登校者が現れると皆の視線はすぐにそちらに移動した。
ひとまず教室に入ることが出来た。後は始業までの時間を潰すだけだ。悠斗はこの時間に備えて持ってきていた本を鞄から取り出し、読み始めた。とはいえ、誰かが教室に入ってくる度に気持ちがそっちにいってしまうので、ちっとも集中できなかった。
「悠斗おはよう!!」
ふいに後ろから声をかけられてドキッとした。ほとんど知り合いのいないこのクラスの中で「悠斗」と呼んでくれるであろう人間は1人しかいない。
小野 拓哉だった。
「あっ、うん、おはよう」
突然だったので何だかぎこちない挨拶になってしまった。そして、当然の様に「悠斗」と呼んでくれるのが何だか嬉しかった。
現在の席順は出席番号順になっていて、出席番号3番の悠斗は前から3列目の席に、出席番号5番の拓哉は5列目の席に着いている。
まだ登校していない出席番号4番の席を挟んで2人は会話を始めた。
「元1-Eの男子俺達だけだし、これからよろしくな!」
拓哉は屈託のない笑顔で手を差し出す。
「う、うん!こちらこそ!」
なぜ握手なのかよく分からなかったが、素直に応じる事にした。とはいえ彼らしい積極的なコミュニケーションに救われているのも事実だ。
「今日の1時間目って何するんだっけ?」
悠斗は何とか会話を続けようと分かりきった事を聞いてしまう。
「何か自己紹介とかだろ?何も考えてねーや」
「そうだよね、どうしようかな…」
『ダメだ、ちっとも面白い会話にならない!』
ヤキモキしている内に、拓哉と同じサッカー部の高野 宏光が登校してきた。
「みっちゃん!おはよー!」
拓哉は高野を見るやいなや、すぐに彼の元へ行ってしまった。
悠斗はまた1人になった。拓哉があっさりいなくなってしまったのは悲しかったが、少しでも会話出来た事は嬉しかった。体の向きを戻し、再び本を開く。
拓哉との会話にいっぱいいっぱいになっていた間に、かなりの新クラスメイトが登校していた。隣の席の女子【 井上 綾香】もすでに登校していた。彼女とは全く面識がないが、生徒会に入っていて、女子バスケ部のリーダー的存在なので、学年でも目立つ存在だ。目立たない存在の悠斗にはとても話しかける勇気はない。
代わりに野球部男子【樋口洋】が彼女に絡んでいた。
「よぉ井上!今日もおデコに海苔付いてんぞ!」
「うるせー!お前にも貼り付けるぞ!!」
『おデコに海苔??どういうこと??』
隣の会話を聞きながら悠斗の頭に疑問が浮かぶ。もし、おデコにコンプレックスがあるのなら、同じような悩みを持つ同士、仲良くなれるかもしれない。少し井上に親近感を持った一方、迫力のある彼女の返しを見て、すっかりビビってしまい結局話しかけることは出来なかった。
そうこうしている内に始業時間となり、2-A全員が席に付いた。
「おはよう」
担任の【濱田雄一】が教室に入ってきた。保健体育担当だけあって、大柄でジャージの似合う、怖くて有名な男の先生だ。樋口や井上がいるクラスをまとめるには妥当であろう。一気に教室に緊張感が流れ、直前まで言い合いをしていた樋口達もすぐに静かになった。体育会系の部活の様な雰囲気に再び悠斗の気持ちが沈みそうになる。
『いやいやここで負けちゃダメだ!頑張らないと!』
悠斗は気力を奮い立たせ、先生の話に耳を傾ける。彼の【新しい中学生ライフ】の火蓋がいよいよ切られたのだった。
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