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昼食が終わると、2-A初日最後のイベント『クラス写真の撮影』の時間となった。新2年生全員が校庭に集められ、各クラスごとに写真を撮って終了となる。
本来なら2-Aから順に撮影していくはずだったのだが、担任の濱田先生の都合上、A組が1番最後に撮影することになった。
2-Aはしばらく校庭で待機。最初はきちんと整列していたが、時間が経つにつれて列は乱れていく。1日中緊張していたので、悠斗は疲れからすっかり気が抜けてしまっており、周りに誰がいるとか、今どうなっているとか、どうでも良くなっていた。
『何とか初日乗り切れた…後は誰か友達になれると良いんだけど…明日は…』
「おーい!悠斗ー??」
「わ!小野くん!?」
悠斗の意識はすでに明日の事へと向かっていたため、いつの間にか拓哉が目の前に居たことに全く気がつかなかった。
「おい大丈夫か??そろそろ写真撮るらしいぜ」
「ごめん、ありがと…」
その時、その日1番ともいえる突風が校庭に吹き付けた。
突風は校庭に残っていた枯れ葉を、砂を、すっかり油断していた悠斗の前髪を吹き飛ばした。
「ちょ!!悠斗…お前めっちゃデコ広!!
アハハハハ!!すげー!」
「っ!!!」
…見られてしまった。しかも豪快に腹を抱えて笑われている。
「アッハハハハ!!やば…めっちゃ腹痛いっ…ハハ!!」
拓哉があまりに笑っているので、近くにいた井上が声を掛けてきた。
「なに?どうしたのー??」
「…いや悠斗のさー!!」
「お、小野くん!!!」
悠斗は制止しようと声を上げたが、動揺やら恥ずかしいやらでちっとも制止力のない声しか出ない。
「いやーごめんごめん!別に良いじゃんかおデコが広くったって!」
笑いを堪えながら拓哉が言った。
「だからそれを言うなって!」
「えっ、上田くんおデコ広いの?」
「うっ…!」
『駄目だ…井上さんにも笑われてしまう…平和に初日が終わるはずだったのに…』
一気に地獄に落とされた気分だった。悠斗はがっくりと肩を落とす。
しかし、聞こえてきたのは思ってもみない言葉だった。
「おデコを馬鹿にするヤツはウチが許さん!!」
『……ん?…あれ?もしかして味方してくれてる…?』
「あー!そっかー!井上もおデコに海苔付けてるもんなー!」
「拓哉!それ以上言うとどうなるか分かるよね??」
井上が凄味を効かせて拓哉に迫る。
「わー!うそうそ!ジョーダンです!!」
「ったく…上田くん!こんな奴の言うこと気にしたらダメよ!!」
「え、あ、う、うん!そうだよね!」
『そうか。井上さんもおデコにコンプレックス持ってるんだった…。それにしても助けてくれるなんて…』
思ってもみない心強い味方の登場に悠斗は幾分か持ち直した。
そこへ再び突風が吹き付ける。悠斗と井上は咄嗟に前髪を抑えた。
「アッハハハハ!!」
再び拓哉が爆笑する。
「お前は風に吹っ飛ばされるくらい痩せて来い!!」
「そーだそーだ!」
井上と共に悠斗も反撃に出る。
「なんだよ!デコデコ!」
「うるさいっ!トントン!!」
「うっ!!…あ~ぁ、悠斗は1年の時そんな事言うヤツじゃなかったのになぁ~」
「残念だけどこういう事言うヤツなんだよねぇ~」
悠斗に【トントン】と呼ばれるとは思わなかったので、拓哉に動揺が生まれた。
そういえば、去年1年間同じクラスだったけれどこんな言い合いはしたことがなかった。言い合いといっても、小さな2人のちっぽけな小競り合いなのだが。
そして、お互いの事をバカにしているはずなのに、2人とも笑っていた。
『せっかくまた同じクラスになったのだから仲良くなりたい』
2人とも内心そう思っていたのだが、なんとなく壁を感じていた。その壁がようやく崩れた気がして嬉しかったのだ。
2人の様子を見て、悠斗がいじめられているわけではないと知り井上も安心した。
「おい!そこの3人!早く集まれ!」
小競り合いをしている間に他のクラスメイト達は写真撮影の隊形に整列していた。濱田先生に呼ばれ、悠斗、拓哉、井上の3人は慌てて隊形に加わった。
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